研究実績の概要 |
2014年度までの研究における本研究企画の成果として主たるものは、1950年代から70年代にかけての急激な精神病床増のあった時代において、措置入院及び生活保護の医療扶助入院の実証研究が行われたことである。 とりわけ、生活保護での入院はその大多数が、精神衛生法下の同意入院(家族の同意による入院)によって行われており、この同意入院について一次行政資料を利用して研究を行った。その結果、同意入院には生活保護を利用しやすくなる財政的・入院形態上のインセンティブがかけられていたことが明らかになった。同時に、1950年代から70年代は、精神病床が現在の数字に近い30万に到達する時代であるが、この時期において同意入院―生活保護の組合せが極めて重要な役割を果たしていたことが判明した。 以上の成果は、先行研究が、精神衛生法に対して公安主義的な解釈を行っていることに対し、実証的な反証となる可能性が認められる。つまり、精神衛生法の時代において、病床供給を財政的に最も強力に牽引していたのは、公安的な要素が含まれる措置入院ではなく、家族というケアラーのディマンドを反映した、生活保護法での公費入院だったのである。 よって,申請者のいう3類型の観点から戦後の精神病床の展開を捉えると,そこに抽出されてくるのは,日本の高水準の精神病床ストックの成立は,先行研究の指摘する公安主義的な精神医療政策や,民間精神科病院の営利主義による患者の大量収容というよりも,患者の入院を望む家族側の需要の広がりと,それを救貧・公的扶助的な体制によって引き受ける制度としての生活保護法の拡充によって構築された,という新しいパースペクティブが開かれていく可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進においても、大きな変更はない。よって、精神病床入院の3類型に従った分析を,戦後にフォーカスを当てて継続的に行う。この目的については,これまでの研究での到達点を踏まえ,更なる理論的・実証的な肉付け・拡充を戦後について実施する計画であり,問題設定はクリアになっているため研究の方向性は明確である。
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