戦後日本における大規模な精神病床体制の成立について、多くの先行研究は入院形態の強制性の問題に着目する一方、その財政的側面は十分に検証されてこなかった。申請者はこれまでの研究により、日本における精神病床入院への公的支出には、強制措置・公的扶助・社会保険の3 種類の歴史的経路が戦前より存在することを実証的に明らかにした。 本研究はその成果を踏まえ、この公的支出の3類型の視点から、戦後日本の大規模な精神病床入院の成立の歴史的動態を明らかにする。その際、申請者の社会政策史的研究と研究協力者による統計・計量分析を組み合わせることにより、3類型ごとの制度的変遷とその影響を質的・量的両面から検証し、戦後精神医療政策研究の刷新とパラダイム転換を目指した。 その結果、これまでの先行研究が主張してきた戦前の私宅監置→戦後の強制入院=公安的という単線的な歴史観ではなく、精神病床入院構造の展開を複線系として把握可能となり、その中でも救貧・公的扶助型として整理される精神病床入院が戦後日本の病床増を最も強く牽引したことが明らかとなった。
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