研究課題/領域番号 |
26870891
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山下 聡 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40511077)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 性分化 / 転写制御 / ゲノム編集 / TALEN |
研究実績の概要 |
ChIP-seq解析による先行研究により、軟骨および性分化でのSOX9の標的遺伝子候補を同定している。本研究は、1.ChIP-seq解析により得られたSOX9の軟骨および性分化における標的遺伝子候補の中で機能未知遺伝子に着目して、新たな機能因子を明らかにする、2.先行研究で同定したDhhを含めた新規標的遺伝子のin vivoでの発現におけるSOX9の重要性について解析する研究である。 平成26年度は、1.胎生期の肢芽のSOX9発現細胞、セルトリ細胞のマイクロアレイデータをGEO(Gene Expression Omnibus)から取得して、ChIP-seqデータと組み合わせて解析を行い、それぞれ144、46の有力な標的遺伝子候補を同定した。これらの中で、Gene OntologyのBiological Processが定義されていない、軟骨では34、セルトリ細胞では16の遺伝子を機能未知遺伝子として同定した。 2. 先行研究で得られているDhhの制御領域について、培養細胞を用いた詳細な解析を行い、SOX9の結合領域を同定した。この結合領域のDhhの精巣形成時における発現への重要性について解析を行うため、この結合領域を欠損する遺伝子改変マウスをTALENによるゲノム編集技術により作製した。このマウスを解析した結果、Dhhの発現への影響は観察されなかった。そこで、精巣形成時において、SOX9と協調して働くNR5A1(Ad4BP1/SF1)について培養細胞を用いた検討を行い、Dhhの発現制御においてSOX9と協調して働いていること、および、詳細な結合領域を同定した。このNR5A1およびSOX9の結合領域を両方欠損した遺伝子改変マウスを作製、解析を行った結果、野生型のマウスに比べて、胎生期の精巣で約4割、Dhhの発現が減少していた。これらの結果から、SOX9とNR5A1が協調的に働き、精巣形成時におけるDhhの発現が制御されていることを明らかにした(論文投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.先行研究で得られたSOX9の軟骨および性分化における標的遺伝子候補のうち、機能未知遺伝子に絞って詳細なin silicoの解析を行い、それぞれの分化における新たなSOX9の機能未知の標的遺伝子を同定する計画は達成できている。しかし、計画では平成26年度中に、これら解析対象をin situ hybridizationによる解析により発生の各段階においてSOX9との時空間的な発現との同期性について解析することで選別し、TALENにより選別した遺伝子のノックアウトの作製を開始する計画であったが、遅れている。 2. 先行研究で得られているDhhの制御領域について、SOX9の結合配列を欠損した遺伝子改変マウスを作製し、そのin vivoでの発現におけるSOX9の重要性について解析する計画は達成できている。しかし、この遺伝子改変マウスはDhhの発現に大きく変化がなかったことから、新たにNR5A1がDhhの発現制御においてSOX9と協調して作用するか調べ、協調作用が確認できたため、このNR5A1およびSOX9とNR5A1の結合領域を両方欠損した遺伝子改変マウスを作製して解析する実験を追加した。これらの遺伝子改変マウスの解析は終了しており、Dhhの制御領域内の解析については計画通り達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
1. SOX9の機能未知の新規標的遺伝子候補について、いくつかの発生段階のマウス胚を試料とした組織切片でin situ hybridizationを行い、発生におけるSOX9の発現時期、発現細胞との同期生や特異性を元に選別し、ノックアウトマウスを作製してin vivoでの機能を解析する。ノックアウトマウスの作製に際しては、TALENよりも迅速、簡便かつ効率的にゲノム編集が行えるCRISPR/Cas9システムを使用してノックアウトマウスを作製することに変更し、研究期間内での作製、解析を可能にする。このシステムでの遺伝子改変マウスの作製技術はすでに導入しており、未報告のものも含め複数の遺伝子改変マウスの作製に成功している(Inui M et al., Sci Rep 2014)。作製した遺伝子改変マウスの表現型を詳細に解析し、軟骨および性分化の新たな機能因子を同定する。 2. 1の解析で得られた軟骨および性分化の新たな機能因子についてはChIP-seq解析データを元に詳細なSOX9の結合領域を推測し、LacZレポーター遺伝子を用いたトランスジェニックマウスの解析によるin vivoレポーター・アッセイにより軟骨および性分化時における発現制御領域を同定する。これらの解析により同定した制御領域は、Dhhの制御領域ではSOX9の結合領域のみの欠損では大きな発現の変化が見られなかったことから、制御領域全体を欠損する遺伝子改変マウスを作製し、in vivoでの発現に重要であるかについて検討する。この遺伝子改変マウスにおいてもCRISPR/Cas9システムを利用するが、未報告のデータで、すでに500bから1kbの領域を欠損するマウスの作製に成功している。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に計画していた新規SOX9の機能未知標的遺伝子のin situ hybridizationによる遺伝子発現の解析およびTALENによるノックアウトマウスの作製の実験が計画の遅れにより実施できず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に実施できなかった新規SOX9の機能未知標的遺伝子のin situ hybridizationによる遺伝子発現の解析およびTALENによるノックアウトマウスの作製の実験に使用する。
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