研究課題/領域番号 |
26870895
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
関谷 泰弘 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, その他 (80727397)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 博物館経営 / ミュージアム・マネジメント / ミュージアム・マーケティング / 鑑賞者開発 / 博物館学 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、我が国における鑑賞者開発モデル構築の第一歩として、デスクリサーチを行い、あわせて、2つの調査を実施した。 1つ目は、東京国立博物館における鑑賞者開発の一環として実施したイベント「博物館で野外シネマ」(26年10月9日、10日)におけるアンケート調査である。 本イベントは、若者をターゲットに企画し、過去の調査結果から、若年層における口コミやインターネットによる情報取得率の高さ、博物館への敷居の高いイメージに着目して実施した。具体的には、イラストなど敷居の低いビジュアルを使用し、ウェブを中心とした情報発信を心がけ、その効果を検証した。効果検証は参加者数及び、出口アンケート調査により行った。参加者は8,600人、サンプルは207件(回答率2.4%)に達した。 結果からは、従来の博物館への来館者とは異なり、インターネットやSNSなどを認知経路とする20代以下が大部分となり、93%が30代以下、50%は学生であった。この結果からは、きっかけづくりや情報発信の工夫により新たな層の開拓が実現可能であることを示唆していた。 ただし、アンケート調査の相関分析からは、普段のミュージアム利用習慣 とイベント参加者の展示場の観覧率に有意の相関関係があり、イベントの実施だけでは、これまでミュージアムに関心のなかった層を新たにミュージアムに取り込むことは難しいことが推察され、鑑賞者開発モデルの構築にはさらなる研究が必要である。なお、研究の成果は、学術論文として発表予定である(投稿済み)。 2つ目は、郵送により実施した国内のミュージアム338館への鑑賞者開発に関するアンケートで、246件の回答を得た(回答率73%)。今後回答を集計・分析して、国内の鑑賞者開発の状況を把握し、平成27年度の国内外調査の基礎としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、初年度にインターネット調査でミュージアムによく来館する層とあまり来館しない層を比較分析し、2年目に国内外の現状を調査、最終年度にそれらの結果を踏まえ、ミュージアムへ新たな層を取り込む鑑賞者開発モデルの仮説をたてて、実際に事業を実施し、その結果を分析しながら鑑賞者開発モデルを構築していく予定であった。 しかし、初年度に鑑賞者開発イベントを実施する予算が急遽措置されたことから、研究計画を変更し、最終年度に実施する予定であった鑑賞者開発モデルに基づいたイベント企画を、パイロット調査という位置づけで先行して実施することにした。企画を立てるにあたっての仮説は過去の調査結果を元にし、イベントの実施状況や分析結果をもとに2年目以降の調査内容を修正することにした。調査結果からは、鑑賞者開発モデル仮説がある程度効果があることが実証されたので、2年目はその結果を元に国内外の実地調査を行い、3年目に再度鑑賞者開発事業を実施するとともに、インターネット調査を実施し、鑑賞者モデル仮説をブラッシュアップする予定である。 計画は大幅に変更になったが、修正した実施計画はおおむね順調に推移しているといえる。初年度に実施したパイロット調査に基づいた分析結果は、学術論文としてまとめて投稿済みであり、当初行う予定であった国内ミュージアムへのアンケート調査も回収まで実施済みで、当初予定通り2年目に分析する体制が整っている。また、実地調査を行う対象もデスクリサーチによりある程度絞り込めており、計画通り2年目に実施可能な体制が整っている。今後は、計画通り研究を進捗させていくことを心がけていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目である平成27年度は、初年度に実施した国内ミュージアムへのアンケート調査結果をまとめて分析するとともに、鑑賞者開発モデルの構築に向けて、国内外ミュージアムの実地調査を実施する予定である。 具体的には、アンケート調査をSPSS等統計ソフトにより分析し、国内ミュージアムの現状を踏まえた上で我が国ミュージアムにおける鑑賞者開発の問題点を抽出する。同時に、鑑賞者開発が進んでいるといわれている英国と米国において、ミュージアムにおける鑑賞者開発の現状と問題点を調査するとともに、実際の鑑賞者開発を目指したイベントをも実地調査したい。同様に、アンケート結果を元に日本においても進んだ取組を行っているミュージアムがあれば、実地調査を実施する予定である。なお、調査結果は学術論文等で発表する予定である。 3年目である平成28年度は、上記の調査結果をもとにインターネット調査等でミュージアムの利用習慣がない層とどのようにミュージアムとの関係を築いていけるのか分析し、我が国における鑑賞者開発モデルの構築につなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」でも述べたとおり、初年度に急遽、所属組織から鑑賞者開発事業を実施する予算が下りたため、当初計画を大幅に変更して研究計画を組みなおすことになった。その結果、初年度実施予定であったインターネット調査は最終年度になり、最終年度に実施予定であったイベントの実施に伴う調査分析は逆に初年度の実施となったため、予算と執行額に差額が生じ、結果として初年度には当初予算を使いきることはできなかった。発生した差額は修正した研究計画をもとに、2年目、3年目で執行する計画である。
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次年度使用額の使用計画 |
2年目である平成27年度は実地調査を実施予定である。この結果を元に最終年度である平成28年度にインターネット調査を実施予定としている。初年度に執行予定であった予算の一部は2年目に調査費の一部として執行し、一部はインターネット調査費として最終年度に執行予定である。その他に学会等で発表する際の掲載費や旅費等も見込んでいる。
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