研究課題/領域番号 |
26870896
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
前川 佳文 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (80650837)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フレスコ画法壁画 / セッコ画法壁画 / 壁画保存修復 / スタッコ法とストラッポ法 / 保存科学 / アンドレア・デル・カスターニョ / 国際情報交換 / フィレンツェ |
研究実績の概要 |
本研究は、壁画保存修復の分野において、近年問題視される壁画分離法「スタッコ法」および「ストラッポ法」が原因で発生したと考えられる傷みの発生原因追究と、その改善策樹立を目的に研究を進めるものである。 研究対象とする作品は、イタリアのフィレンツェに建つ旧サンタポッローニア修道院に所蔵される《荘厳のキリストを支える二人の天使》(Cristo in pieta sorretto da due angeli)であり、画家アンドレア・デル・カスターニョ(Andrea del Castagno)によって1448年頃に制作されたものである。この作品は、20世紀半ばに実施された修復においてストラッポ法を用いて壁から分離された後、金網支持体の上に石膏を用いて置き換えられている。 本年度は、壁画の性質や損傷状態を調査するうえで、サンプリング等の行為が認められていないため、拡大鏡での目視調査や、通常光、側光線、紫外線、赤外線写真撮影を用いた非破壊での光学的手法を選択し、グラフィック・ドキュメンテーションの制作を実施した。 一連の調査の結果、過去の修復時における支持体への設置作業において、使用された接着剤の高粘性が原因と考えられるたわみが確認できた。また、写真撮影調査の結果、作品全体の約35%を占める箇所への加筆が確認され、その大部分からアラビアガムと思われる反応がみられたことから、補彩には水彩絵具が使用されたのではないかとの判断ができた。 今後は、本年度の調査結果を踏まえ、石膏で貼付されたパネル保存型壁画に適した保存修復方法の検証および実施と、将来を見据えた保存管理環境の確立に向け研究を継続してゆく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、当初イタリアのフィレンツェに建つ旧サンタポッローニア修道院にアンドレア・デル・カスターニョによって描かれた『最後の晩餐』および『キリスト降架』『キリスト磔刑』『キリスト復活』を含む一連の作品を対象に実施する計画であった。しかしながら、採択時における研究経費上の問題から同作家により同時期に描かれた作品に対象を置き換え研究を行う事となった。現在の研究対象作品が当初予定していた作品の約1年後に制作された事や、過去における保存修復が同じ修復士の手により同時期に行われたことから、研究目的に大きな影響を与えることなく計画通りに進行しているといえる。 本研究の大きな目的は、文化財保存の世界におけるパネル保存型壁画に適した保存修復方法および管理方法の確立にある。それに加え、研究計画立案時に細かく設定した「研究過程において注目するべき項目」については全体の約55%を達成するに至り、本研究に対する現地関係者からの関心度が高まりを見せている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、これまでの研究成果を基に作成した保存修復プログラムに沿う形で現地保存修復専門家の協力を得ながら実際の保存修復作業に着手し、各保存修復行程から見えてくる情報を詳細に記録すると共に、パネル保存型壁画に適した保存修復方法および管理方法の確立に向けたガイドラインを構築してゆく。 なお、研究対象作品を描いたアンドレア・デル・カスターニョはイタリア・ルネサンス期を代表する画家のひとりであり、彼の作品はルネサンス最盛期を代表する画家レオナルド・ダ・ヴィンチにも多大なる影響を与えたといわれている。この事からも分かるように、イタリアにおける芸術作品としての位置付けが高いことから、作品が所蔵される旧サンタポッローニア修道院を管轄下に置くフィレンツェ文化財・美術館特別監督局担当官と綿密な連携体制を築きながら研究を進めてゆきたい。また、保存修復作業を実施するにあたっては修復材料についても慎重に議論を重ねながら選択するものとし、より効果的な使用方法を検討してゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究対象の作品から、採択時における研究経費上の問題から別の作品に置き換えなくてはならなくなった結果、使用額に差異が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究を継続する上で重要となる保存修復事業への使用を計画している。
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