本研究では、試験所(測定者)の「測定の不確かさ」の見積もりの妥当性も含めた測定能力を検証するために、必要な統計的方法を開発した。近年、試験においては、その値を報告するのみならず、その値の質、すなわち、「測定の不確かさ」を報告することも求められてきている。複数の試験所で同一の測定対象物を測定した結果を比較し、試験所の技量を評価することを技能試験と呼ぶ。上の目的のために参照となる試験所との比較による技能試験がよく行われている。しかしながら、参照となる試験所がない試験分野も多く、客観的に試験結果の妥当性を確認することはしばしば困難な課題であった。 統計学的側面からはこの問題の解決のために主に2つの課題があり、一つ目は「外れ値に頑健な手法の開発」である。この目的のために、我々は各試験所が報告した値の(標準偏差にあたる)標準不確かさに加えて付加的な不確かさを導入し、ベイズ統計の推定値とした。どのように付加的な不確かさを与えるかについては、ベイズ統計によるモデル選択の考え方を適用した。実際の技能試験の解析では、統計モデルに基づかない解析手法が用いられることが多かった。統計モデルに基づく頑健な手法を与えることで、解析の客観性を高めることができた成果は大きい。 もう一つの課題は「統計的に意義の明確な統計量の決定」である。技能試験の結果は個々の試験所にとって、実際上の影響は非常に大きいにも関わらず、従来、提案されてきた評価量は経験的なもので、その背景にある考え方は明瞭でなかった。本研究では、この目的のために、統計モデルを定め、そのベイズ事後予測統計量を与えた。この際、例えば100試験所が参加した場合でも数分の計算時間で済む程度に計算上の負担を抑えることが現実的である。我々の開発した手法はこれを達成し、現実の問題に適用しうるものとなり、いくつかの試験的な解析事例を示すことができた。
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