研究課題/領域番号 |
26870907
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
千賀 亮典 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 研究員 (80713221)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低次元材料 / カーボンナノチューブ / 原子鎖 / 電子顕微鏡 / 単原子分光 |
研究実績の概要 |
初年度にヨウ化セシウムを原料とした異なる原子が一列に並んだ原子鎖の合成と評価に成功した(Nature Materials (2014))。原子の種類によって動的挙動が異なるなど、マクロなスケールでは現れないユニークな現象を次々と発見した。これを基に平成27年度はさらに幅広い材料を用いた一次元材料の評価へと研究を展開した。特筆すべき成果は、軽元素を含む原子鎖の合成及び評価で、電子顕微鏡を用いて初めてリチウム単原子を可視化することに成功した(Nature Communications (2015))。このプロジェクトでは透過電子顕微鏡技術を柱としてナノスペース科学の基礎を構築することを目的としているが、従来のイメージング手法では軽元素の可視化は非常に困難であった。特にリチウムは工業的にも極めて重要な元素でありながら、これまで電子顕微鏡による観察が困難とされてきた元素の一つであった。本研究ではリチウムを含んだヨウ化リチウム原子鎖や、リチウム内包フラーレンをカーボンナノチューブ内部のナノスペースに閉じ込め、走査透過電子顕微鏡及び電子エネルギー損失分光を駆使することで初めてLiを単原子レベルで可視化することに成功した。さらにフッ素や塩素、ナトリウム、カリウムといったドーパントとして低次元材料の性質に大きな影響を与える元素についても単原子レベルでの分光に成功した。これら本年度の成果と初年度に得られた知見を組み合わせることで、原子鎖という完全な一次元構造を持つ材料について、ドーパントや空孔といった欠陥を含めた原子構造を直接観察するだけでなく、周辺原子の化学的性質の変化を追えるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画には含まれていなかった、軽元素の単原子分光に成功するなど期待よりも大きなインパクトを与える研究成果を得られた。一方で当初の計画ではナノスペースに合成された低次元材料の物性評価にはテンプレートの除去を検討していたが、これについては十分な知見が得られていないので来年度も継続して行う。また内包物よりもバンドギャップの大きな窒化ホウ素ナノチューブをテンプレートとして用いることで、テンプレートを除去せずに内包物の物性を評価する手法を検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は本プロジェクトの最終目標である、ナノスペース内部の一次元材料の物性評価を重点的に行う。当初の計画ではカーボンナノチューブ内部に一次元材料を合成した後、内包物をテンプレートから取り出し、内包物の物性評価を行うことを検討していた。ところがこれまでの研究でナノスペース内部の構造物は外側のテンプレートと非常に強く相互作用していることがわかってきた。故に内包物の除去以外にも、テンプレートをよりバンドギャップの大きな窒化ホウ素ナノチューブに変更し、テンプレートを除去せずに内包物の評価を行うことも検討する。評価手法としてはモノクロメータを搭載した電子顕微鏡を用い、高エネルギー分解能電子エネルギー損失分光法を用い、荷電子励起損失ピークからバンド構造・バンドギャップを測定する。さらに一次元材料を機械的に変形させ、構造と物性の関係を明らかにしていく。評価対象とする材料はこれまでに合成に成功した一次元イオン結晶をはじめ、テンプレートである、カーボンナノチューブ・窒化ホウ素についても行い、内包物の有無が物性に与える影響も明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文査読中につき当初計画していた学会への参加を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度必要な消耗品の他、計画当初よりも多くの成果が出ているため、それらの論文化および学会での発表に重点的に充てる。
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