本研究では、カーボンナノチューブなど円筒状微細空間を持つナノ材料をテンプレートとして利用することで、新たな機能性一次元材料を探索・評価することを目的として研究を進めた。実施方法として気相法による試料合成と電子顕微鏡観察を中心に、密度汎関数による計算等も組み合わせた、多角的なアプローチにより課題解決を目指した。初年度にはイオン結晶性の原子鎖をカーボンナノチューブ内部に合成することに成功し、その動的挙動の観察に成功した(Nature Materials (2014))。翌年にはさらに幅広い材料から構成された一次元材料の合成にも成功した(Nature Communications (2015))。これら新奇一次元材料にはリチウムなどの軽元素が含まれており、本研究を進める中で付随的に、電子顕微鏡による単原子レベルの軽元素可視化という重要な要素技術を確立した。また、これらの材料では一次元特有の物理特性を有することがわかった。さらに詳細な物性評価を行うために、本課題研究期間の後半には、単色化した電子源を用いた高分解能電子エネルギー損失分光を電子顕微鏡内で実施し、これまでマクロスケールでの計測が主であった光吸収測定や赤外吸収測定をナノスケールで実施することに成功した(Nano Letters (2016))。こうした物性評価を新奇一次元材料に応用していく中で、カーボンナノチューブ内部に合成したヨウ素原子鎖における電子密度波とそれに伴う状態遷移を発見した。これは当初の研究計画では予想していなかった結果であり、最終年度に追加の実験と第一原理計算を行った。その結果、通常のバルク結晶では考えられない長距離変位を伴う状態遷移であることがわかった(Nano Letters (2017))。この結果はテンプレートであるカーボンナノチューブと内部の原子鎖との間の電荷移動を直接的に示すものである。
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