研究課題/領域番号 |
26870910
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
原 紳介 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所超高周波ICT研究室, 主任研究員 (30434038)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピタキシャル成長 / ヘテロ構造 / 電子デバイス |
研究実績の概要 |
未開拓の電磁波領域である超高周波(ミリ波・テラヘルツ波)帯を利用する情報通信技術の基盤構築を目的とし、インジウムガリウムアンチモン(InGaSb)化合物半導体をチャネルに利用した相補型高電子移動度トランジスタ(Complimentary High Electron Mobility Transistor: c-HEMT)の開発を行った。課題研究を行うにあたり、本年度は1.デバイス構造の設計・特性予測、および2.エピウェハーの作製・評価解析の研究項目を遂行した。 1.デバイス構造の設計・特性予測の研究項目ではシュレディンガー ―ポアソン方程式ソルバーにより、n-、p-型動作可能なHEMT構造の設計を行った。本年度遂行した研究項目”2”にてInGaSb量子井戸(QW)層の電子移動度が予測より劣化してしまうことが明らかになった。この解決策として電子をInAs層、ホールをInGaSb層と走行層を分離したチャネル構造を検討し、チャネル層膜厚やドーパント濃度などのデバイス構造のシミュレーション最適化を行った。 2.エピウェハーの作製・評価解析の研究項目では、InGaSbチャネル層の成長構造・条件の最適化の検証を行った。AlGaSbバッファ層より成長したInGaSbは、成長初期段階で欠陥孔を形成することが明らかになった。成長条件を検証した結果、欠陥孔の発生を抑制することができることを明らかにし、国内学会で報告した。この条件にて試作したInGaSb QW層の電子移動度は3000cm2/V・sであり、当初の目標を達成できない可能性が出てきた。このため新たに電子とホール走行層を分離したデバイス構造を再設計し、電子移動度15000cm2/Vs、シートキャリア濃度3×10^12cm2のn-型QW構造の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度遂行した課題研究において、①InGaSb層の成長時の欠陥孔の形成、ならびに、②n型QW構造における電子移動度の劣化、の2つの予期していなかった問題に直面した。詳細な分析の結果、①の問題は成長用GaAs基板とAlGaSbバッファ層の界面で形成した双晶欠陥が表面まで伝播し、InGaSb層成長初期時にIn原子が同欠陥中にトラップされることが原因であることが明らかになった。格子不整合起因の双晶を抑制することは困難であったが、InGaSb成長温度を極端に下げる(350℃)ことにより、欠陥孔発生を抑制することを明らかにできた。しかし②の問題では、これは同一チャネル内で多量に存在する電子とホールの再結合が原因と考えられ、現状の構造では特性向上が困難になると予測された。このため、電子ならびにホールを走行する層を分離することにより、各々の輸送特性を維持しつつ動作可能なデバイス構造へ設計を変更した。 本年度は上記2つの問題について解決を図るため、デバイス構造の再検討が必要になった。そのため、n-、p-型HEMTの試作評価の研究項目がやや遅れている。本年度、同研究項目を注力することにより、課題達成を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、3.n-、p-型HEMTの試作評価の研究項目について注力する。 3.n-、p-型HEMTの試作評価では、同じ量子井戸構造のエピウェハー基板を用いてn-、p-型動作するHEMTを別々に作製する。プロセス工程(フォトレジスト塗布・ベーク、露光・現像、酸化保護膜、電極作製など)における影響を調査し、最適な手法・材料を検討する。試作したデバイスはDC、RF特性を評価し、またTEM解析による形態観察等も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費としてプロセス作業用の消耗品に予算を割り当てていたが、想定より安く購入ができたため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の残額は、本年度において必要となる消耗品(成長用基板、プロセス用等)へ充足することを計画する。
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