断層周辺の岩石に発達する割れ目の性状から,「地震時に断層のどこから滑りが開始して,その後どの方向へ伝播したか,どこが震源か」について推定できる可能性が理論研究により提唱されてきた.しかし岩石を用いた実験や自然地震に関する現地調査による検証はほとんどなされていない.そこで本研究では,割れ目性状と破壊伝播方向の関係を実験的に検証するために,室内において断層の地震性動的滑りを再現した実験を行なった.その結果,角度60.5°試料を用いた実験により,断層沿いで自発進展する滑りイベントが再現することができた.また載荷応力に比例して,滑りイベントの伝播速度は増加することが確認された.ただしその伝播速度は最大でも2.4m/sとなっており,自然地震で観測される数km/sに比べて非常に遅いものであった.実験後の試料に発達する微小割れ目を解析するため,試料から薄片を作成し,顕微鏡観察を実施した.しかし残念ながら顕微鏡にて検出可能なマイクロスケールの割れ目の顕著な発達は認められなかった.この原因としては,実験により再現した滑り伝播イベントの伝播速度が,自然地震よりも非常に遅く,イベント発生時の応力降下量が小さいため,割れ目の形成に至らなかった可能性が考えられる.本課題は本年度をもって終了するが,今後も引き続き自然地震に近い伝播速度を持つ滑りイベントの再現実験に取り組み,割れ目特性から地震伝播方向の関係の実験的に検証し,地震被害予測向上への寄与を目指した研究を進めていく予定である.
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