研究課題/領域番号 |
26870913
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
三角 和弘 一般財団法人電力中央研究所, その他部局等, 主任研究員 (10462889)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鉄 / コロイド / 海洋モデル / 凝集 |
研究実績の概要 |
従来の海洋鉄循環モデルは,溶存鉄の除去過程として粒子への吸着を考えてきたが,モデルで再現される溶存鉄濃度は観測データと比べ高く,他に重要な除去過程があることが指摘されている.海水中の挙動が鉄と類似するトリウムでは,溶存態が粒径の小さいコロイド粒子(< 1 μm)に吸着し,それが凝集することで粒子(> 1 μm)として除去される過程(コロイダルパンピング)があることが知られている.コロイド粒子に吸着した鉄は観測事例が多くあることから,鉄においてもコロイダルパンピングが除去過程として重要である可能性が高い.本研究ではコロイダルパンピングを考慮した海洋鉄循環モデルを開発し,溶存鉄の除去における役割を明らかにすることを目的としている. 本年度はコロイド粒子を鉄循環モデルに導入するため,海水中の粒子を計算する手法に関して文献調査を行い,主に三つの手法(サイズクラス法,モーメント法,ビン法)に分類されることがわかった.本研究では,コロイド粒子の凝集による粒子への物質輸送に注目するため,輸送過程を正確に計算できるビン法を用いることとした. ビン法を用いて海洋表層にコロイド粒子を連続的に供給した場合の粒子とトリウムの挙動を計算を行った.コロイドの凝集により粒子が生成され,粒径1 μm以上の範囲において粒子数のサイズスペクトルが指数-4のべき乗則に従い,観測による知見と整合的な結果が得られることを確認した.また,コロイド粒子がトリウムを吸着しないと仮定した場合,除去効率の低下により溶存態の濃度が数倍程度高く計算されてしまうことがわかった. また,作成したモデルを結合する海洋モデルについて,同一のモデルで鉛直一次元と三次元の計算を行うための整備を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイズクラス法であるYe et al., Biogeosciences (2009)の手法を3次元のモデルに適用する計画であったが,不確実なパラメータが多いため,力学に基づいた計算を行えるビン法を用いることとした.ビン法を用いたコロイダルパンピングの計算が可能となり,ボックスモデルによる計算でも十分に新しい知見が得られると考えられた.当所の計画より基礎的な検討にシフトしたため,海洋モデルとの結合という観点からはやや遅れているが,総合的には概ね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はビン法を鉄に対して適用し,粒子に吸着した鉄のサイズスペクトルを計算できるようにする.作成したモデルを利用して様々な地点におけるケーススタディを行い,コロイダルパンピングの溶存鉄の除去における役割を明らかにする.また,三次元のモデルに適用できる手法を開発し,全球のコロイド状鉄の分布を再現する. 2015年度は,ビン法に関する学会発表を行い,学術論文を執筆することを目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
必要なスペックを満たすデータ解析用PCが想定よりも安価に購入できたため.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度実施予定の国外出張と物品購入で予算が不足する可能性があるため,その補充にあてる.
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