研究課題
貧栄養なサンゴ礁生態系が何故,多様で生産性の高い環境となりえるのか長年の謎であったが,その答えの1つとして「サンゴ粘液」が注目されている。サンゴ粘液とはサンゴが体外に出す分泌物であり,従属栄養性細菌の成長を促進し物質循環を円滑に駆動させる役割があることが近年わかってきた。このサンゴ粘液が微生物食物連鎖(従属栄養性細菌→鞭毛虫→繊毛虫→上位の動物プランクトン)の物質フローを促進する可能性があるため,本研究では,サンゴ粘液の生産量と微生物群集(従属栄養性細菌,鞭毛虫,繊毛虫)の生産量との関係を明らかにし,サンゴ粘液からスタートする微生物食物連鎖の炭素フローを定量的に評価することを目的としている。平成26年度は,サンゴ粘液の微生物群集への影響をみるため,海水をサイズ分画し(従属栄養性細菌のみ, 2μm; 従属栄養性細菌+鞭毛虫, 10μm),それぞれを造礁サンゴの1つであるエダコモンサンゴを飼育した培養水(粘液が含まれる)およびコントロール水(粘液を含まない)で培養を行い,従属栄養性細菌数,鞭毛虫数,溶存態有機物(DOC)濃度の変動を調べた。実験は琉球大学の瀬底実験施設で行った。実験の結果,粘液由来のDOC濃度は48時間以内にただちに従属栄養性細菌に利用され,細胞数が増殖し,それに伴い鞭毛虫が増殖する様子が確認された。しかしながら,コントロール区においてもDOC濃度が通常海水よりも高く(おそらくコンタミと思われる),それに伴う従属栄養性細菌の増殖が見られた。そのため,さらにコントロール区の海水のDOC濃度が低いことを確認して再度の実験を必要としている。
2: おおむね順調に進展している
コントロール区においてコンタミの可能性が確認されたが,サンゴ粘液添加区においては予想通りの微生物の増殖が見られ,実験はおおむね順調と言える.ただし,より定量的な結果を出すために,コントロール区のDOC濃度を厳密に操作して,再度実験を行う予定である。
平成27年度は,前年度と同様にサイズ分画した海水を用いて,エダコモンサンゴ粘液の微生物増殖に対する応答を調べる。さらに瀬底島周辺で見られる様々なサンゴ種をもちいて実験を重ね,最終的には,瀬底島サンゴ礁域に分布するサンゴが微生物食物連鎖に及ぼす影響および炭素フローを明らかにする。
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