研究実績の概要 |
大地震の破壊開始点は地震発生領域の下限近くとなる事が多い[e.g., Sibson, 1982]。その領域における岩石物性に関し、「流体の影響」なる単語は業界でよく耳にするが、それが具体的にどの様な物であるかを示した例は少ない。2015年1月にGeologyに報告された [Hirth and Beeler, 2015] 岩石の脆性・塑性遷移域における有効応力則(間隙流体圧の力学的影響)に関する予想を受け、今年度はアナログ物質(NaCl)を用いた摩擦実験を主なターゲットに据えて実験を行った。 NaCl 粉末が高温・高圧で固結し、摩擦的な挙動から流動的な挙動へ遷移する領域において、間隙流体圧の影響を実験的に測定する事に成功した。その結果、以下の事が明らかとなった。1.間隙流体圧は封圧の影響を中和する向きに働くが、その効果の係数αは脆性・塑性遷移域を通じて1である。上述の予想 [Hirth and Beeler, 2015] に反する結果が得られた。2.剪断強度の有効圧力(封圧ー間隙流体圧)に対する依存関係に関しては、低温で線形の摩擦挙動から高温では依存性が無くなっていく形であり、間隙流体圧が大気圧の条件で行った過去の研究結果 [Shimamoto and Noda, 2014] と矛盾しない。1.に関しては、摩擦の凝着理論 [Bowden and Tabor, 1950] および真実接触近傍の個体部の変形の構成則が平均応力に寄らない事を仮定すれば理解できる。 石英・粘土混合物の圧力溶解クリープを素過程として含む摩擦の微物理モデルが近年報告された [den Hartog and Spiers, 2014]。そのモデルに乗っ取った速度・状態依存摩擦構成則を定式化し、これを用いて地震サイクルの数値計算を行った。 これら2件の研究は平成27年度中に国際誌に投稿、受理されすでに出版されている。
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