研究課題/領域番号 |
26870922
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
岸本 諭 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (60714532)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心拍変動 / 補助人工心臓 / 大動物 / 心不全モデル |
研究実績の概要 |
補助人工心臓装着を要する患者の中には、心機能が改善し補助循環からの離脱が可能な患者が存在する。しかし補助人工心臓が装着され心臓が減負荷された状態において、人工心臓の補助を停止した時の真の(潜在的な)心機能を評価する指標は確立されていない。心臓自律神経の状態は心不全の重症度と関連していることはすでに知られており、我々は心電図から心臓自立神経機能を推定する心拍変動(HRV)に着目し、デバイス装着下においても真の心機能を推定する手段として応用可能ではないかと考えた。本研究ではまず3頭の成ヤギ(体重51~53㎏)に対してマイクロスフィアを用いた冠動脈微小梗塞と、引き続く28日間の連続的頻脈ペーシングにより心不全を作成した。心不全完成後、体外式遠心ポンプを用いた左心補助人工心臓(LVAD)を装着した。術後1週間毎のクランプテストで心機能を評価し、HRVとの関連を解析した。 1例LVAD装着後6週間の観察を達成した。他2例はそれぞれ冠動脈塞栓後不整脈、LVAD装着手術後合併症で失った。生存例のベースラインの心機能はCO=5.8L/min、FS=44%、Low frequency power (LF)/ High frequency power(HF)=1835/1536 ms2。28日間ペーシングの後CO=3.1 L/min、FS=18%、LF/HF=6.3/9.8 ms2まで低下した。LVAD装着後、圧測定カテーテルに起因する肺塞栓・呼吸不全を発症する4週目まで、心機能回復とHRV指標の上昇傾向が認められた。クランプ下(off)の測定では、1週目(LF/HF=38.6/5.8 ms2。off; CO=4.8 L/min、FS=29%)、4週目(LF/HF=216.6/9.6 ms2、off; CO=5.0 L/min、FS=41%)であった。 心拍変動は真の心機能を反映する可能性が示唆された。また心臓以外の不調も鋭敏に反映し、真の心機能を含む「真の全身状態」の指標として有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は大動物(成ヤギ)を用いた心不全モデルの作成から、完成した心不全モデルにLVADを装着する全過程を観察しデータを採取するという、動物実験でしか成し得ない侵襲的な実験を実施した。心不全モデル作成過程およびLVAD装着手術は侵襲が大きく、3例中2例を心不全作成過程およLVAD装着手術で失った。1例において心不全モデルにLVAD装着後、1か月以上の観察を達成することができた。一貫したデータを取得できたのはこの一例であったが、大動物心不全モデルにLVADを装着するという実験系における問題点、LVAD装着下の心機能評価における心拍変動の有用性、もしくはその限界について知見を得ることができた。しかし、動物実験においてはLVAD装着後のデータを複数例得たり条件を変化させたデータを得るには至らず、統計学的な結論を得ることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
心拍変動解析は基本的に心電図を取得、解析するのみであるから無侵襲であり、それが最大の利点である。大動物実験で得られた知見をもとに、実際の臨床現場においてデータ取得、解析ができるように準備を進めている。また補助人工心臓装着患者はまだ症例数が少ないため、経皮的心肺補助装置装着患者にも研究の対象を広げデータ採取を計画中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は大動物実験と情報収集に研究費を使用した。主に旅費として使用し、動物実験の費用については当該施設の備品を効率よく使用したため、出費が抑えられる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
臨床データ採取用の器材(心電計)、院内データ解析システムの整備、採取データを解析する統計ソフトの購入等に充てる予定である。
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