研究課題
国内周産期施設より依頼され大阪府立母子保健総合医療センター研究所で分離した流早産関連ウレアプラズマ28株中、9株はキノロンに高いMICを示した。これら菌株はキノロン耐性決定領域(QRDR)であるParCのS83L変異を有していた。一方、研究所に保有するウレアプラズマ130検体由来のDNAのQRDRの塩基配列決定では、29株に変異を認めた。それらの中で新たなParCの2変異(S83W, S84P)について、ホモロジーモデリング及び、de novoペプチド構造予測にて、耐性に関わる可能性が高いことを示した(Antimicrob Agents Chemother, 2015)。これまでに、ウレアプラズマのゲノムデータ(Genome Announc, 2014)を元に酵母(真核細胞)の増殖を阻害する遺伝子をスクリーニングし、ureacytotoxin (ucx) と名付けた遺伝子が酵母の増殖を阻害する事を見出した。今回、ucx遺伝子が培養ウレアプラズマで発現していることをDNase I処理したRNAのRT-PCRにて確認した。ucx遺伝子が大腸菌(原核細胞)の増殖に影響するのか否か検討した。発現ベクターにはpET28aを用い、大腸菌JM109(DE3)にucx遺伝子を発現させた際の増殖曲線を解析したところ、宿主大腸菌の増殖を抑制すること、宿主細胞の増殖を制御することが分かった。種々の長さのucx遺伝子欠失クローンの解析で、UcxのC末端に大腸菌の増殖を抑制するドメインがあることを見出した。また、宿主大腸菌株によってUcxによる毒性に差があるのか否かを検討した。GFP-Ucx融合蛋白質を5種類の大腸菌に発現させその増殖を解析した結果、毒性蛋白質発現に適したC43(DE3)大腸菌では増殖抑制が起こりにくいことを発見した。
2: おおむね順調に進展している
年間早産は世界で1500万人に及び、そのうち100万人は早産及びその合併症で死亡している(WHO推計)。非淋菌性の尿道炎患者からのウレアプラズマの発見から半世紀以上、周産期領域では、不妊や流早産との関連が議論されてきた。一方、多くのリプロダクティブエイジ女性の生殖器内から分離されることから、果たして病原細菌なのか、それとも常在菌なのかという論争が続いた。大阪府立母子保健総合医療センター研究所では、これまでヒト流早産胎盤からウレアプラズマの分離を行い、疫学的に流早産との関連を明らかにし、さらに妊娠マウスに対してウレアプラズマ外膜タンパクMBAは早産や胎仔死亡を引き起こすことを見出してきた。流早産に関する病原因子が同定されたことで、本菌が当該領域における病原微生物である事を証明した。多くのヒトに感染が拡大している理由については、抗菌薬耐性の関与が考えられる。我々は新たな薬剤耐性遺伝子変異を報告したが、周産期領域ではキノロン系薬剤は禁忌であり、耐性変異の獲得は他の成人医療分野で投与された抗菌薬によって選択を受けたものと考えられる。流早産母体の腟内の細菌検査で、正常バリアを形成する乳酸菌が少なくなっていることをしばしば経験する。ウレアプラズマに他の細菌の増殖を抑制する因子が有るか?。大腸菌をモデルとして、細菌増殖を抑制するウレアプラズマ因子の解析を行った。これまでの結果から、JM109(DE3)大腸菌内でUcxを発現させた場合には、宿主大腸菌の増殖を阻害した。C43(DE3)内でUcxを発現させた場合には宿主大腸菌の増殖抑制は認められなかったことから、宿主大腸菌の何らかの因子がUcxによる毒性発揮機構と関連することが示唆された。ウレアプラズマの生存競争を勝ち抜くための新たな役者が明らかになりつつある。
大腸菌や宿主細胞におけるUcxの毒性発揮機構の解析を進める。これまでにUcx感受性大腸菌と、Ucx耐性大腸菌を得て、これらの菌の比較からUcxの毒性発揮機構に菌の形状が関連することが分かってきた。方法としては、次世代シーケンサーを用いたこれら2株のDNAシーケンス情報から影響のある因子を抽出する方法が考えられるが、2株間に多くの変異が存在する可能性が高く因子同定には適さない可能性もある。そこで種々の宿主大腸菌内を用いた発現系をテストし、C43(DE3)によるGFP-Ucxの発現を可能とした。GFP-Ucx融合蛋白質の局在を蛍光顕微鏡にて局在を調べ、Ucxの毒性発揮機構に関わる因子のさらなる絞り込みを行う。また、発現したGFP-Ucx蛋白の精製を行い結合する因子の解析を行う。結合因子の解析は、質量分析器を用いて行う予定である。最小病原細菌であるウレアプラズマがいかにして大多数のヒトに感染し、正常腟内細菌叢である乳酸菌などを押しのけて増殖し続けられるのかという命題に対して一つの解が得られると期待している。GFP-Ucx融合蛋白質の局在を蛍光顕微鏡あるいは電子顕微鏡にて局在を調べる。これらの顕微鏡観察はUcxの毒性発揮機構に関わる因子の絞り込みに役立つと考えられる。蛋白質構造解析の一助として3Dプリンターを使用する。
当該年度の研究は自施設の備品、試薬で施行できたため。
ライカのWiFiカメラ内蔵実態顕微鏡や蛍光顕微鏡のレンズを購入し、電顕による詳細な観察や病原蛋白の局在を検討する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Antimicrobial Agents and Chemotherapy.
巻: 59 ページ: 2358-2364.
doi: 10.1128/AAC.04262-14.