これまで古代における食生活の復元は、文献や木簡などの文字資料による研究が中心であった。本研究は、遺跡から出土する食料残滓から古代における食生活の実態を解明することを目的としており、食生活に関わる基礎資料を収集するとともに、遺跡出土資料の検討をおこなう。本年度は古代に加えて、古墳時代の遺跡から出土した動物遺存体を集成して、考古資料と文字資料の比較検討をすすめた。 「遺跡周辺の自然環境=資源環境」とみなすことによって、環境考古学で復元される自然環境を人間活動と関連づけることが可能になる。木簡や延喜式に記載される貝類の生息環境を検討すると、アワビを中心として外海岩礁性群集が卓越する。貝類の資源環境を考慮すると、畿内周辺で多量のアワビを獲得できた地域は若狭や志摩といった、「御食国」と考えられる地域が該当する。こうした岩礁域(いわゆる「磯」)は、マダイなどの磯魚、ウニ類、海藻類も獲得することができる。一方で、ハマグリやマガキ、シジミ類といった資源量の多い貝類(大量に採取できる貝類)は、畿内周辺で獲得可能にも関わらず、木簡や延喜式にはほとんど見られなかった。すなわち、考古資料と文字資料を比較すると、古代には貝類に対する大きな価値の差異が認められ、「中央へ貢進するための採貝活動」と「地元で流通・消費するための採貝活動」を分けて議論できることを明らかにした。 こうした成果については、近江貝塚研究会第273回例会において「動物遺存体からみた古代の食」、条里制・古代都市研究会第33回大会において「馬の貢進・貝の貢進」と題する口頭発表をおこなった。
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