研究実績の概要 |
今年度は東北地方の被災3県(岩手、宮城、福島)に焦点をあて、2020年の救急医療の需給バランスとその地域差の将来推計を行い、被災年2010年と比較した需給バランスの経年変化を縦断的に検証した。 緊急度の高い救急患者の年間発生数の将来推計は、消防庁緊急度判定実証検証事業の搬送記録、人口問題研究所の将来人口データを用いて行った。需給バランス指標として(1)救急車またはドクターカーで救命救急センターに45分以内にアクセス可能な地域内(カバー圏内)で発生する患者割合(カバー割合)(2)各センターから患者1人あたりに配分される供給量=1/各センターのカバー圏内患者数、を推定し、2010年からの経年変化、ならびに、3県の将来格差を推計した。 2010年から2020年で、人口10万人対の年間患者発生率は253.30人から326.80人に増加、カバー割合は60.3% (8,657 / 14,365) から67.5% (11,726 /17,378)に改善すると推計された。患者1人あたり供給量は 0.0013 (IQR:0.0010ー0.0017) から 0.0012 (IQR: 0.0009ー0.0017)に低下が見込まれる。2020年時点の将来格差は、カバー割合で53.5% (宮城県86.5% - 岩手県33.3%) 、患者1人あたり供給量は0.0006 (宮城県0.0015ー岩手県0.0009) であった 本研究により、東北大震災被災地域において、救命救急センターのアクセス時間が改善するという点でのセンター設置効果が検証された。しかし、高齢化に伴う救急搬送需要の増加に伴い、医療サービス供給量の低下と地域差の拡大可能性が示された。本研究で開発された救急医療の需給バランス指標は、二次的データを有効活用した救急医療資源配置の意思決定支援に非常に有用と考えられた。
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