研究課題/領域番号 |
26880002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川又 生吹 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30733977)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 反応拡散系 / DNAコンピューティング / 分子計算 / セルオートマトン / 分子ロボティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的通り,核酸を用いた反応拡散系の実験とシミュレーションを進めた.実験では,平均の網目サイズが20nm程度であるアルギン酸ゲルを反応場として使用することで,拡散係数を制御することに成功した.具体的には,長さ20nm未満の短い一本鎖DNAと,直径が30nm程度の円形DNA構造で,拡散係数に約100倍の差があることが分かった.拡散係数の測定には,蛍光退色回復法(FRAP)を用い,定量的に評価することができた.
さらに,既存のマイクロゲルビーズを作成する技術を用いて,DNA変換器をゲル内に閉じ込めるアイディアにいたった.変換器に円形構造を結合させることでビーズ内に留め,信号となるDNAは短い一本鎖とすることでビーズ内外へ拡散する.変換されて出力された信号は,別の変換器の入力になっており,3種類のビーズをランダムに配置することで,2段階の変化を観察することに成功した.状態の変化は蛍光により観察し,空間的な配置によりパターン形成に応用できる可能性が示唆された.
またシミュレーションでは,プログラム性を持たせるためにセルオートマトンのように空間を離散化した場でのモデル化に着手した.数値計算を繰り返すことで,大きく分けて二つの成果を得た.一つ目は,2つのセル以外が均質なハニカム格子から,隣接するセルが同色にならないように3塗り分けることができる反応拡散系の数式を設計した.二つ目は,既存のDNA酵素システムを反応拡散系に応用することで,始点から終点までの経路を残す迷路問題を解くことができることを発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
反応場は申請書の段階ではアクリルアミドゲルが有力であったが,簡便に実験を行えるアルギン酸ゲルに方針転換を行った.結果として,平成26年度中に計画していた拡散係数の制御を行う実験がスムーズに進み,平成27年度に進める予定であったパターン形成にもすでに着手している.
シミュレーションでは,申請書において平成26年度中に直線などの単純なパターンを出す反応モデルから着実に設計する予定であった.直線パターンはANDゲートを使うことで作成できることが分かったため,実験による検証に取り組むつもりである.またANDゲートを使った単純なパターン生成の方針を応用することで,空間全体にパターンが広がる複雑な反応拡散モデルに拡張することができた.
また既存の反応拡散シミュレータで実行可能なコードをプログラミングすることで,シミュレーションと可視化が容易に行えるようになった.可視化にはシミュレータの出力を変換するソフトウェアを自前で作成した.また既存のDNA酵素のシステムに注目することで,反応速度や拡散係数を実験的に最適化する必要性を最小化することに成功した.セルのサイズやゲルの厚みがパラメータとなるため,実験によって検討する条件は小さくできた.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,DNAを用いた反応拡散系の設計と実装を進める.一番の課題は,設計したモデルと実験で行っているシステムに隔たりがあることである.実験においては単純な変換器だけを想定しているので,モデルをより単純化し,変換器だけでできるパターンの設計とシミュレーションを進める.具体的にはANDゲートを使った,領域を分割する壁を作るパターンである.三種類のゲルビーズA,B,Cを準備し,AとBの間にあるCだけがANDゲートで状態遷移することで,垂直二等分線のようなパターンを描く.
一方シミュレーションモデルでは,最先端のDNA酵素システムがゲル中で問題なく動作することを仮定している.実際に実験を行い,どこまでそのモデルが通用するのかを調べ,モデル側にフィードバックをする.特にアルギン酸ゲルの作製と酵素反応ではバッファー条件が異なるため,その影響を調べる必要がある.具体的にはカルシウムイオン存在下での酵素反応の効率を調べ,状態遷移が正しく行われるか蛍光観察により評価する.
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