人間は、複雑な自然画像中から最も注目すべき物体や領域を選択し、視覚的注意を向ける事で実環境に適応している。また、コンピュータ・ビジョンで最も重要な問題は、画像中に物体が「どこ」にあるかを、解明する事である。これらの能力を実現するため、図領域を統合し、注意選択 を行う大脳視覚領野の情報処理メカニズムについて研究した。具体的には、生理学的知見に忠実 な計算モデルを構築し、人間が図領域へと注意を向け、物体位置を知覚するメカニズムを明らかにした。 平成27年度は、前年度に得られた知見に基づき、多様なシナプス結合パターンを反映した図領域統合に基づく注意選択の計算論的モデル(saliency map)を構築した。提案モデルとヒトが示す注意選択特性を定量的に比較した。具体的には自然画像に対する視線移動を記録したデータベースから得られたヒトの知覚特性とモデルが示す注意選択領域を定量的に比較した。提案モデルは、ヒトが示した注意選択領域へ定量的に良く注意を向けることが示された。さらに、先行研究の注意選択の計算モデルと比較したところ、本研究が提案するモデルが最も良くヒトの注意選択特性を定量的に再現した。 これらの結果は、神経科学だけでなく、知能ロボティクス分野も発展させる可能性を持つ重要なものだと考えている。さらに、これらの知見を解析することで、深層学習のメカニズムの理解が可能になると期待される。また、これらの研究成果を発表する論文の執筆準備を現在進めている。
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