研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き、レプリカ法による制限等長定数の評価に関する研究を行った。 制限等長定数とは、圧縮センシングにおけるL0, L1再構成の十分条件を与えるものである。昨年度は、レプリカ対称性と呼ばれる仮定の下で解析を行い、既存の研究よりも精度のよいバウンドを与えた。ここまでの研究結果をまとめた論文は、本年度開催された国際会議「IEEE International Symposium on Information Theory」に採択され、香港にて発表を行った。 本年度はこの研究を発展させ、レプリカ対称性の破れ(RSB)を考慮した解析を行った。一般的に、RSBを考慮することで、バウンド評価がより精密になると考えられる。制限等長定数を評価するためには、ランダム行列から生成した小行列の最小・最大固有値を評価することが必要である。RSBには、主に「1 step RSB」と「Full step RSB」と呼ばれるものが存在するが、ガウス型ランダム行列については、最小固有値評価においては1 step RSBが、最大固有値評価においてはFull step RSBが起こることが明らかとなった。1 step RSB、Full step RSBは異なる物理的描像に基づく相転移であり、本研究は最小・最大固有値の評価がそれぞれ異なる相転移描像を持つことを指摘し、その違いを考慮したうえで制限等長定数を評価することが重要であることを示した。以上の研究成果は、論文として執筆中である。 また圧縮センシングのように、スパース性を利用した統計的モデリングにおいて重要な問題の一つである、情報量規準の研究を開始した。これは今後の研究として展開していく予定である。
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