研究実績の概要 |
モーションキャプチャーシステムを用いて,自閉スペクトラム症者(ASD)および定型発達者(TD)の到達把持運動時における運動学的特性を検討することが本研究の目的である.ASD群10名(女性1名,18.2 ± 2.1歳,全て右利き)と年齢を統制したTD群10名(全て男性19.4 ± 2.0歳,全て右利き)が実験に参加した.実験参加者の正面30 cmに配置した木製円柱(直径4・6 cm)に対する到達把持運動実行中の見えの影響を調べるため,液晶シャッターゴーグルを用いて,運動中常に視覚が利用可能な場合(視覚あり[Full Vision: FV]条件)と運動開始後(スタート位置のスイッチから手を離すと)見えが遮断される条件(視覚なし[No Vision: NV]条件)を設けた.そして,視覚条件の提示方法として,(1) FV条件とNV条件をブロック化する(1つの実験ブロックでは常に同じ視覚条件を提示する)場合と(2) FV条件とNV条件を交互に行う場合をテストした.把持調節の指標として,運動途中で現れる指間距離最大値を算出した.さらに,一連の動作を適切に連結できているかの指標として,動作間遷移時間(把持完了から持ち上げ開始までの時間)を分析した.上記の指間距離最大値,動作間遷移時間について,4要因の分散分析(参加者間:グループ[ASD, TD],参加者内:物体サイズ[4, 6 cm],視覚条件[FV, NV],提示文脈[ブロック化,交互])を行った.指間距離最大値について,TDと同様に,ASDにおいても,FV条件の方が,NV条件に比べて有意に小さいことが明らかになった.動作間遷移時間については,ASDが,TDに比べて有意に長くなった(ASD: 114 ± 28 ms, TD: 36 ± 21ms).本実験の結果より,ASDの到達把持運動制御における運動中の見えの利用について,TDと類似した運動パタンを示した一方で,動作間のスムーズな遷移(この場合,つかむ動作から持ち上げる動作への移行)が困難であることが示された(cf. Fabbri-Destro et al., 2009).
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