研究実績の概要 |
本研究では,ビッグデータの普及促進に向けたプライバシー保護に関する研究を推進している.例えば,ユーザIDを秘匿したまま認証を行う匿名認証が注目されており,生体認証との融合も試みられているが[Blanton+, ICICS09],ユーザID以外にも個人を識別し得る準識別子があり,これを用いた個人識別のリスクが残る.このリスクを明確にするため,平成27年度では,前年度同様,実用面で特に重要な位置情報プライバシーに着眼し,匿名化されたトレースから個人を識別する攻撃の研究で成果を挙げた.
位置情報プライバシーに対する攻撃としては,マルコフモデルに基づく攻撃法が最も代表的である[Shokri+, S&P11].この手法は,ターゲットとなるユーザ毎に遷移行列を学習し,それを用いて匿名化トレースを再識別する.しかし,多くのユーザは普段から公開している位置情報は少量であるため,攻撃者が入手できる学習データは現実には少量である.この問題に対して,前年度では,個人毎の遷移行列の集合を3次元テンソルとみなし,テンソル分解を用いて効率的に学習を行う学習法を提案していたが,個人識別攻撃には適用しておらず,その有効性は不明確であった.
そこで今年度は,まずテンソル分解を用いた学習法を個人識別攻撃に適用し,実データを用いた実験でその有効性を示した.また,位置情報がある種の「グループ構造」(例えば,多くのユーザは都会エリア内に滞在しやすい,Aliceは田舎エリア内に滞在しやすい,など)を持っていることを考慮し,このグループ構造を捉えるため,グループスパース正則化をテンソル分解に組み込んだ学習法を提案し,さらなる高精度化が実現できることを示した.さらに,学習用トレース内の位置情報が一部欠損する状況を考慮し,Viterbiアルゴリズムを用いた欠損位置の推定とテンソル分解を繰り返す学習法を提案し,有効性を示した.
|