本研究では、2003年に日本へと導入された新興感染症コイヘルペスウイルスをモデルシステムとし、宿主個体群遺伝構造と新興病原体の相互作用を評価するための解析手法の確立と基礎的知見の取得を行った。 宿主個体群の遺伝的構造を迅速に評価するため、環境DNA(水に含まれる、生物に由来するDNA)を利用した解析手法の開発を試みた。まず、一塩基の違いを高感度に区別できるサイクリングプローブ技術を用いたリアルタイムPCRにより、一塩基多型に基づいて2つの遺伝子型を判別するとともに、両者の頻度を定量する環境DNA手法を水槽実験レベルで確立した。さらに本手法の実用性を確認するため、本手法を自然水域へと適用したところ、複数のコイ地域個体群の遺伝的構造を広域的かつ迅速に評価することに成功した。環境DNAによる宿主個体群遺伝構造解析に関わる研究成果は、平成27年度に国際学術誌に公表された。また、2008年から2009年にかけて自然水域から採取されたコイヘルペスウイルスの遺伝子解析を行った。すると、日本には単一系統のコイヘルペスウイルスのみが導入されたのにも関わらず、導入数年後には複数の遺伝子型が存在することが明らかとなった。つまり、日本への導入後、コイヘルペスウイルスに遺伝的変異が生じたことが示唆された。 以上の成果より、宿主コイ個体群遺伝構造とコイヘルペスウイルスの相互作用プロセスを検証するための土台を構築することができた。
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