本年度は、三陸海岸北部(八戸から久慈)の最終間氷期海成段丘調査と三陸海岸中南部(久慈から鮎川)の沖積低地における掘削調査を実施した。最終間氷期海成段丘調査では、段丘面を覆う被覆層の火山灰分析を実施し、三陸海岸北部の模式的な火山灰層序を確認するとともに、当地域の10万年スケールの隆起速度を明らかにした。火山灰分析は粒子組成、重鉱物組成、一部は屈折率測定を実施し、当地域の模式的な火山灰層序を上位より、To-H、To-BP1、To-G、To-OK2、To-AP、To-CP、Toyaとした。DEMデータと段丘面上の被覆層の厚さの情報から、最終間氷期の旧汀線高度が16-30mであることがわかった。したがって、最終間氷期以降の隆起速度は0.1-0.2mm/yrとなる。この値は従来の値より若干小い。これは高精度の地形データと正確な被覆層の厚さの情報の成果である。沖積層低地における掘削調査では、既存の機械式ボーリングコア、今年度実施した簡易掘削コアのデータから、宮古市太田浜、南三陸町大沼、石巻市谷川で完新世の沈降傾向が示唆された。太田浜と谷川では、いずれも現海面下に陸成の堆積物が分布する。加えて、太田浜では、既存の機械式ボーリングコアを対象に珪藻分析を実施した。その結果、多くの層準では淡水生種がほとんどであったが、一部の層準で汽水・海水生種が産出し、過去の海面付近を示す可能性がある。大沼では、既存の機械式ボーリングコアを用いて、貝化石の分析および放射性炭素年代測定を実施した。貝化石の生息環境と層相から過去の汀線を推定し、その年代値を用いて沈降速度を求めた。その結果、最近7-8千年間で0.5-1.3mm/yrの沈降速度が得られた。これらの情報から断片的ではあるが三陸海岸北部では10万年スケールでは隆起傾向、三陸海岸中南部では1万から数千年スケールで沈降傾向であることがわかった。
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