本研究では、屋外環境に曝される石造文化遺産に初期に付着する微生物のうち、初期対応の必要性が高いと考えられ、共生生物として生態が未解明な部分の多い地衣類に着目する。建造物基材とそれらに強化剤や撥水剤を適応した際の水に対する特性を把握した上で、文化遺産建造物におけるフィールド調査と同フィールドにおける基材の曝露試験を行う。これによって地衣類の建造物基材に対する初期定着挙動を明らかにすると共に石造文化遺産の修復材料を適応した際の初期定着挙動についても明らかにすることで定着のメカニズムを解明し、効果的な防除方法の開発に資するデータを得ることを目的とする。 アンコール遺跡群バイヨン寺院の壁面を構成する石材にて行われたクリーニング、強化、撥水の修復施工試験箇所について、施工後の着生生物の付着経過を観測した。基質強化処置および撥水処置が施された石材の曝露試験の経過観測から、未処理試験体への地衣類の付着は著しく、基質強化処置が施された試験体への地衣類の付着は撥水処置のみが施された試験体と比較して非常に少ないことがわかった。また基質強化処置のみが施された試験体については地衣類の付着は認められなかった。これは石材表面付近の微細形状や、水分が付着した際の石材表面における水分保持時間等の影響によるものと考えられた。この結果により、地衣類の付着および定着防止に対する基材の基質強化処置の重要性が明らかとなった。
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