運動トレーニングによる心血管系の適応現象には大きな個人差があり、これには運動中に生じる循環反応の個人差が関係している可能性が考えられるが、これまで運動時の循環反応の個人差に関する基礎的な知見はあまり得られていない。近年、静的ハンドグリップ(HG)運動を用いた簡便な実験モデルによる検討で、動脈血圧の反応に対し心拍出量や末梢血管抵抗の反応には大きな個人差が存在することが示唆されたが、リズミカルな運動(動的運動)でのこれらの反応の個人差については明らかではない。本年度においては、動的運動時における動脈血圧、心拍出量および末梢血管抵抗の反応の個人差の程度とそれらのパラメーター間の関係性を明らかにすることを目的として実験を行った。 漸増負荷自転車運動を用いた実験を実施した際に、最大運動負荷のおよそ70%以上の強度では信頼性の高い心拍出量の測定が困難な被験者がみられたため、高強度においても安定した心拍出量の測定が可能な動的HGによる実験を行った。具体的には、健康な男女30名を被験者とし、最大発揮張力の50%での動的HGを疲労困憊まで行った時の動脈血圧、心拍数、心拍出量、総末梢血管抵抗、下肢血流量および下肢血管抵抗を測定した。運動時の循環反応の個人差は、被験者間変動係数(CV)により定量した。動的HG時を疲労困憊までの40%以上継続すると、心拍出量および末梢血管抵抗の反応のCVは血圧反応のCVよりも顕著に大きな値となった。また、動的HG時に心拍出量が大きく増加する者ほど、この時の末梢血管抵抗は大きく低下するという関係がみられた。これらの結果から、動的HG時においても、これまで検討されてきた静的HGと同様に、心拍出量および末梢血管抵抗の反応には血圧反応よりも大きな個人差が存在すること、また、その心拍出量の反応と末梢血管抵抗の反応との間には負の比例関係があることが示唆された。
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