平成27年度は、医学研究における研究参加者個人のゲノム情報を通知(提供)する際の内容、方法、特に配慮すべき点について文献調査を通じて検討した。また、臨床医療における全ゲノム解析結果の返却について文献調査によって動向を把握し参考とした。 臨床医療においては、米国臨床遺伝学会(American College of Medical Genetics and Genomics)が2013年に、患者の全ゲノムシークエンスを行った場合に検査機関が医療者に伝えるべき二次的所見(検査を発注した目的とは直接関係のない結果)として、56遺伝子のリストを発表するなど、個人のゲノム情報の積極的な通知についての議論があった。一方で研究においては、ゲノム情報の通知についての議論および実証研究が蓄積されてきていた。検討の結果、現時点においては、研究参加時の説明文書に記載していない限り、研究者は研究参加者個人のゲノム情報を積極的に通知する義務を負わないと考えられた。しかし将来的に、研究で実施される全ゲノム解析の分析的妥当性が向上し、解釈基準が統一され臨床的な有用性が高まり、かつ臨床におけるゲノム情報の活用が拡大・普及した際には、通知によってもたらされる利益とリスクが変化することから、より良い通知の在り方は、科学技術の発展に応じて継続して検討し続けるべきと考えられた。 さらに、研究参加者個人のゲノム情報は参加者の家族(血縁者)にも共有されることから、家族への通知およびその影響に関しても検討を行った。その結果、家族に対する通知に関して検討すべき論点として、研究者が家族に負う責任の範囲、研究対象者の希望の尊重およびプライバシー保護、家族の範囲(代理人等)、許容されうる例外状況、研究対象者の死後、対象者が未成年の場合、が挙げられた。今後、日本の医学研究の文脈においてこれらの論点を検討する必要がある。
|