研究課題/領域番号 |
26882015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
進矢 正宏 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (90733452)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 立位姿勢制御 / 引き込み現象 / 視覚外乱 / Vection / 感覚運動統合 |
研究実績の概要 |
本研究は、「姿勢制御システムが感覚予測と実際の感覚入力を統合して立位姿勢を制御している」ことを明らかとすることを目的として行った。特に、従来の姿勢制御研究では重視されてこなかった感覚予測の役割に注目した。 周期的視覚外乱の振幅が立位姿勢制御に与える影響を調べる実験を行った。被験者は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、仮想現実(VR)空間で静止立位を行った。被験者は4分間、前方の十字マークを注視するよう求められた。最初の1分は、視覚外乱は与えられない通常の立位条件、続く3分は予測可能な視覚外乱としてVR空間内での視点を、前後方向に周波数0.2 Hzで周期的に移動させた。周期的視覚外乱の振幅は、身長の0.3%, 3%, 10%とした。 これまでの研究では、視覚的外乱が与えられると、それを自己運動の結果と解釈する錯覚(Vection)が生じ、それに対して、時間遅れを伴う同位相でのフィードバック的姿勢応答が観察されることが知られている。すなわち、前方の壁が近づいてくると、自分が前に倒れているという錯覚が生じ、それに対して姿勢を後方に倒す応答が観察される。本研究では、通常の同位相での姿勢応答に加えて、特に外乱の振幅が大きい条件において、逆位相での姿勢応答が観察された。 中枢神経系の働きとして、自信の運動結果に伴う感覚予測と、実感覚入力を統合する際に、その差が最小になるような制御が行われると考えられる。本研究で観察された逆位相の姿勢応答は、このような感覚運動統合の結果であると解釈される。すなわち、被験者はあるタイミングで前方へ倒れるかのような視覚入力が得られることが予測できる状況で、自らが積極的に前方に倒れることによって、運動と感覚との間の矛盾を解消する、という方略があり得る、ということが示された。これらの結果は、2つの国際学会(ISPGR, SfN)で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究において、振幅が0.5 mm程度という意識に上らない程度の視覚外乱に対しては、無意識的に生じる自己運動錯覚(vection)に対する姿勢応答が観察される、ということが報告されている。本研究は、この結果を追試しつつ、振幅が大きくなると位相が反転したモードも観察されるのではないか、という仮説を検証するものであった。ところが、本研究のセットアップでは、身長の0.3%という意識に上らない小さな振幅に対して、先行研究で報告されているような結果は得られなかった。この点について、先行研究は、プロジェクターとスクリーンを用いているのに対して、本研究ではヘッドマウントディスプレイを用いている等の差異による影響も考えられるため、原因を特定する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、小さい振幅に対する姿勢応答において先行研究の結果が追試できなかった点についての追試を行う。ヘッドマウントディスプレイの解像度やディスプレイサイズが小さかった点などが原因として考え得るので、平成27年度は、より没入感が得られるようなヘッドマウントディスプレイを用いる。また、外から光が漏れてくることによる影響も除外するため、照明を落とした暗室環境下で実験を行う。追試に成功した場合は、昨年度計画と同様に、まずは外乱の振幅に対する影響を調べ、その後は振動刺激やGVSを用いて、体性感覚や前庭感覚との統合の影響を明らかにする実験を行う。ヘッドマウントディスプレイを用いた実験系で追試が行えなかった場合は、ヘッドマウントディスプレイとスクリーンという環境の違いが、姿勢制御における感覚運動統合に影響を与える、という仮説を立てて実験を行う。
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