研究実績の概要 |
本研究では、高齢糖尿病患者の転倒発生メカニズムの解明に向け、動き始めに着目した動作分析を行うことで、転倒リスクおよび糖尿病と関連の強い姿勢調節の特徴を明らかにするため、地域在住高齢者を対象とした調査を実施した。平成26年度に実験プロトコル決定とリクルート・データ測定を開始し、平成27年度はさらに対象者数を増加して、442名の測定・分析が完了した。実験では、赤外線レーザーを用いた動作解析システム(Step+, 日本シューター)を用いて、矢印の向きの方向に踏み出す順方向課題、および反対方向に踏み出す逆方向課題の2条件においてステップ動作を分析した。データ解析では、時間的指標として踏み出し側の足底離地までの反応時間、踏み出し側の接地までのステップ動作時間、空間的指標として歩幅、正確性の指標として正答率を算出した。 過去1年間の転倒経験の有無により群間比較を行ったところ、転倒群(123名)では非転倒群(329名)に比べて、逆方向課題における反応時間(p<0.01)およびステップ動作時間(p<0.05)が有意に遅延していた。順方向課題における各指標、および逆方向課題における歩幅、正答率に有意な差はみられなかった。さらに、転倒と糖尿病の有無を二要因とした二元配置分散分析を行ったところ、逆方向課題の反応時間およびステップ動作時間に有意な交互作用がみられ(p<0.05)、糖尿病と転倒経験の両方を有している高齢者で特異的に動作開始に遅延がみられた。すなわち、高齢糖尿病患者の転倒リスクは、動作場面において注意・判断力などの認知機能が要求された際に検出されやすく、中枢神経系による複雑な制御を要する動作開始に着目した分析がリスク評価として有効となる可能性が示唆された。今後は、高齢糖尿病患者の転倒予防に有効なトレーニングプログラムの開発・効果検証などを実施していく必要がある。
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