本研究は、発育期段階から繰り返される足関節捻挫再受傷を予防するための神経生理学的な評価指標の確立を目指して実施した。中枢神経系を介する皮膚反射機構を用い、具体的に以下2点、1) 初めての足関節捻挫は時系列的にどのような神経系の回復過程を示すか、2) 慢性化へとつながる複数回目の足関節捻挫では神経系の回復過程が違ってくるのかの解明を進めた。併せて、発育期へ応用するため、3) 再受傷リスク要因との関連性を発育期コホート研究により検証した。
最終年度では、初回足関節捻挫後には長腓骨筋の皮膚反射応答が抑制性に大きくなり、先行研究(Futatsubashi et al.2013)で示した慢性的足関節不安定性における結果と同様の変化を示した。その後、受傷後3か月程で回復する時系列的変化を示した。一方で、2回目以降の受傷例では長腓骨筋の皮膚反射応答が常に抑制性に大きく、3か月後も回復せずに慢性的足関節不安定性と類似した変化が残存した。このことより、初回足関節捻挫後に比べ2回目以降の受傷後では長腓骨筋の抑制性皮膚反射応答の回復が遅くなること、中枢神経系の可塑的変化が“受傷頻度”に応じて引き起こされることを示唆した。特に初回と2回目との間に臨界期が存在している可能性が考えられた。 さらに、発育期コホート研究により足関節捻挫の再受傷リスクとして”受傷頻度”が大きなリスク要因の一つであることが再確認された。
以上の観点より、足関節捻挫再受傷の一要因として“受傷頻度”に伴う神経機構の違いが明らかとなってきた。この知見より足関節捻挫後の新たな神経系リハビリテーションプログラム作成および再発予防対策の確立につながることが期待される。また、足関節捻挫発生機序に対し、神経生理学という新たな視点を与えるものであり、今後さらに検討を進めていく必要がある。
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