国内では身体活動の促進を考える上で、これまで促進要因という正の面に焦点が置かれてきたが、逆の負の面である阻害要因は等閑視されてきた傾向にある。そこで、本研究では2つの日加文化比較研究を通して、①日加間における身体活動の阻害要因ならびに阻害要因折衝の類似・相違点を明らかにすること(研究1)、②身体活動の阻害要因と阻害要因折衝が人々の心理的健康に与える影響を文化別に精査すること(研究2)を目的とした。 研究1と2の調査ともオンライン調査法を用いて、20歳以上の日本人とカナダ人を対象に調査を実施した。研究1の調査データの内容分析から、9つの阻害要因(心理的要因、身体的要因、ライフスタイル要因、対人関係要因、金銭的要因、時間的要因、コミットメント要因、環境要因、活動種目要因)と9つの阻害要因折衝(心理的折衝、身体的折衝、ライフスタイル折衝、対人関係折衝、金銭的折衝、時間的折衝、活動種目折衝[調整]、活動種目折衝[マネジメント]、活動種目折衝[自己適応])の存在が明らかとなった。ホテリングのT二乗検定とフォローアップt検定の結果から、日本人はカナダ人よりも活動種目要因で身体活動が阻害されていたのに対し、カナダ人は日本人よりも時間的に身体活動が阻害されていた。一方で、日本人はカナダ人よりも活動種目(マネジメント)を折衝することで身体活動に参加しようしていたが、カナダ人は日本人よりも金銭的・時間的な面から阻害要因を折衝していた。 研究2のオンライン調査では、研究1で明らかとなった各9つの阻害要因と阻害要因折衝に関して専門家レビューを通して開発した尺度を用い、阻害要因と阻害要因折衝を測定した。研究2の調査データを基に行った各文化別の重回帰分析から、両文化とも心理的健康に対人関係折衝がポジティブな影響を、身体的阻害要因がネガティブな影響を与えていることが明らかとなった。
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