本研究の目的は,“熟練している”とはどういうことかを解明する横断的な視点と,“熟練していく”とはどういうことかを解明する縦断的な視点から,ヒトの身体運動における熟練とは何かを解明することであった.対象とする身体運動は,テニスや卓球といったネット型スポーツの試合場面でみられるような,環境の変化(飛来するボールの位置や頻度が様々に変化する環境)に応じて様々な動作を連続的に切り替える運動であった.具体的には,卓球において,ボール投射マシンより2種の方向(フォアサイドおよびバックサイド)に確率的に飛来するボールに応じて,複数の動作(フォアハンドおよびバックハンド)を連続的に切り替える打球動作であった. 平成27年度では,“熟練していく”とはどういうことかを解明する縦断的な視点に関する研究を行うため,本実験への準備を推し進めた.上記の研究を行うことは,実験的に設定された学習環境において学習者の振る舞いが変化していく過程を観察することと合致する.ただし,ここでは,学習者の技能レベルに合わせて,その運動学習を最も促進する学習環境の制約強度を実験的に正確に設定する必要があった.本年度ではその設定に尽力したため,本実験には至らなかったが,その設定もほぼ完了していると言え,今後速やかに本実験に移行できる段階である. また,本研究課題の期間中に行われた研究成果をもとに,名古屋大学教育発達科学研究に博士論文(題目:フラクタル構造からみた連続切替打動作の熟達)を提出し,平成28年3月において博士(心理学)が授与された.
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