本研究の目的は、二肢協調運動の神経機構を電気生理学的、行動学的な実験から検討することであった。 下肢を動かすと、その動きに上肢の神経活動が同調する現象(上下肢間の機能的結合)について、その発現要因を検討するための予備的な実験を行った。被験者10名を対象に、右足関節の周期的な動作を、①随意運動、②受動運動に注意を向ける、③受動運動に注意を向けない、④運動イメージ、の4パターンで行ってもらった。それぞれの課題中に、ランダムタイミングで一次運動野に経頭蓋磁気刺激を行い、右前腕筋から運動誘発電位を記録した。その結果、全ての課題において、右手関節伸展筋の運動誘発電位は足関節が背屈中に底屈中より有意に高かった。これは、全ての課題で、機能的結合が発現したことを示している。この結果から、機能的結合の発現には、運動の想起、および体性感覚信号が重要であるという可能性を得た。この成果を、1st International Brain Stimulation Conference (Singapore) にて発表した。 また、二肢の組み合わせによって協調運動の正確さが異なる現象のメカニズムを検討するため、行動学的な実験を行った。両手、対側手足、同側手足の三種類の組み合わせそれぞれにおいて、一肢を受動的に動かし、もう一肢は随意的に動かして合わせるという課題を行った。結果、二肢とも能動的に動かしたときは、組み合わせによって正確さの違いが顕著であったが、受動運動を用いた課題では、組み合わせ間の正確さの違いが見られなかった。これは、受動運動に合わせるという課題を用いることで、クローズドループ制御に統一したことによると思われる。このことより、二肢の組み合わせによって正確さが異なるのは制御様式が根本的に異なるからであると推測した。この成果を、Physiological Reports に原著論文として掲載した。
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