骨格筋の糖・脂質代謝を高めるためには、乳酸性作業閾値(LT)強度の持久性運動が有効である。そして、これにはAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化が関与する。一方、高強度・短時間運動は、LT強度の持久性運動に比べて運動量が少ないにも関わらず、十分な代謝適応を引き起こす。しかしながら、この分子機序は明らかではない。そこで、本研究では、骨格筋代謝適応効果のトリガーとしてAktキナーゼ(Akt)に着目し、「LT強度を大きく超える高強度運動で初めてAktは活性化され、これを介して骨格筋代謝適応効果をもたらす」との仮説を検証した。12週齢のWistar系雄性ラットに、低強度(10m/分)から高強度(27.5m/分)に亘る幾つかの運動強度でトレッドミル走行を30分間行わせ、運動直後のヒラメ筋ならびに足底筋を摘出し、Aktのリン酸化レベルをウェスタンブロッティング法にて評価した。昨年度は、LT強度で上昇すると考えられるAMPKのThr172残基リン酸化レベルの上昇が、17.5m/分のLT強度運動では認められなかったことを報告したが、今年度の結果より、LT強度の上限に相当する中強度運動(22.5m/分、30分間)からリン酸化レベルは上昇すること、また運動強度の増加に伴い、リン酸化レベルは更に上昇することを確認した。結果として、本研究の仮説とは異なり、AktのThr308残基のリン酸化レベルは、AMPKのThr172残基リン酸化レベルの上昇と同様の運動強度から上昇し始めることが明らかとなった。したがって、Akt以外の高強度・短時間運動で特異的に活性化される酵素が骨格筋代謝適応を引き起こす可能性も考えられる。
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