日常生活において、ヒトは目的とする運動を概ね達成することができる。地上には身体を鉛直下方向に牽引する重力が存在するため、目的とする運動を達成するには、中枢神経系による身体に働く重力作用の考慮が必要となる。この中枢神経系による運動制御機序を明らかにするために、鉛直方向への上肢運動を対象とした行動学実験の解析を進めた。上肢に貼付したマーカーの経時的な座標値に基づき、逆動力学計算および順動力学計算を用いて、関節トルクおよび重力トルクそれぞれが生成する上肢の角加速度を算出、評価を行った。鉛直上方向と下方向間に角加速度の相違が確認され、その要因として関節トルクに由来する角加速度の方向間の相違に着目した。解析結果は、中枢神経系が運動方向および運動局面に応じて上肢に働く重力作用を考慮し、主として関節トルクに由来する運動学的特性を生成することを示唆した。本研究結果の一部を日本スポーツ心理学会第42回大会で発表するとともに、研究結果をまとめて国際学術雑誌に投稿した。さらに上記と同様の鉛直方向への上肢運動課題を用いて、中枢神経系による運動計画特性の把握も試みた。命令刺激を実験協力者に呈示し、刺激呈示から上肢運動の開始に至るまでの上肢の反応時間および運動学的特性を分析することで、身体に働く重力作用の考慮を反映した中枢神経系の運動計画・制御機序の一端を解明することができる。実験データのさらなる取得・分析に基づき、随時公表する予定である。
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