研究課題/領域番号 |
26882059
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研究機関 | 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター |
研究代表者 |
鈴木 敦 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学研究部, 契約研究員 (00734790)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | スポーツ心理学 / スポーツカウンセリング / 受傷アスリート / 気づき / ソーシャルサポート |
研究実績の概要 |
本年度に実施した研究は、交付申請書に記載した研究②を前倒しして行った形になる。研究②では、受傷体験を選手としての成長につなげる心理的メカニズムの検討を行うことを目的としていた。本年度論文投稿し、掲載の許可が得られた研究では、第二研究者の心理相談事例を用い、周囲からの支援を受けることによって、受傷アスリートの心理面や周囲との関わり方が変化し、それと同期して対処行動(リハビリへの取り組みと競技との関わり方)が変容していくことを明らかにした。そこでは、相談が進むにつれてサポート提供者が支援の得られにくい物理的距離の遠い他者(旧環境の地元の友人)から支援の得られやすい物理的距離の近い他者(新環境のチームメート)へ変化していった。また、支援環境ならびに周囲との関わり方の変化と同期して、怪我の受け止め方の変化や自己への気づきの深まり、さらには対処行動の積極的変化が認められるようになっていった。ここでは、相談室での面接における相談者との関係性を基盤として、周囲との関わり方、リハビリへの取り組み、競技との関わり方といった広義の意味において心理的成長が見られるようになっていった。先行研究(例えばWaday et al., 2013)で主張されていた身体的、心理的、社会的、パーソナルな側面の成長のうち、身体的成長以外の心理的、社会的、パーソナルな側面の成長が認められたことになる。 先行研究では、リハビリ過程における時系列的な支援環境や対処行動の変化を示した研究はなかったが、本研究ではその過程をより詳細に提示し、分析・検討することができた。今後は、本研究の結果をトレーナーやコーチ等の現場スタッフに伝える機会を設け、受傷アスリートが怪我というネガティブに捉えがちな現象をより成長につながるポジティブな現象としても捉えられるように支援を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、先方の都合もあり研究①の質問紙調査を行うことが困難であった。したがって、先に研究②の心理相談事例を用いた研究に着手した。臨床心理身体運動学研究に投稿し、論文が掲載化となった。 一方、受傷アスリートが心理的成長を実感する過程にイニシエーションや「死と再生」のテーマが認められるという仮説を明確に実証することはできなかった。先の論文の対象者は、周囲との関係(適切な支援を受けられない、もしくは受け入れようとしないこと)を心理的課題のひとつとしており、面接での話題が周囲との関係を中心に展開しており、そこを分析の観点とした。 今後の質問紙調査および面接調査では、心理的成長過程とイニシエーションおよび「死と再生」のテーマのつながりについて検討する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究①の質問紙調査を行い、受傷経験後の成長と怪我の受容や自己・他者への気づきの関係を検討する予定である。先方との日程調整を行い、質問紙調査を行う日程も決定しているため、質問紙調査を行い次第、論文化を目指していく。また、質問紙調査と並行して、受傷経験後に大きな成長の見られたアスリート数名に対して面接調査を実施する予定である。ここでは、対象となった傷害における受傷から復帰までの流れを聞いた後に、受傷後の心理的成長やそう感じるにに至ったきっかけや経緯などについて詳細に聞いていく。 そして、スーパーヴィジョンを受けながら継続している心理相談面接については、相談終結後、被面接者の許可が得られたものに対して、事例検討会等で発表を行い、有識者に意見を求めたうえで、論文化を目指す。
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