研究課題
平成27年度はテヘラン市を主なフィールドに、労働市場だけではなく私的領域や地域社会におけるイラン女性の活動全般について収集した文献や調査データを元に分析を進めた。このようにイランにおける女性の活動領域を重層的に捉えることで、同国女性の「仕事」の領域や社会的配置の構造的な把握を目指した。その成果として、まずはイラン的概念の整理を進めたことが挙げられる。今年度も現地調査を2回行ったが(第1回:2015年9月、第2回:2016年2月~3月)、第1回の調査ではイスラーム文化思想研究所(本部:テヘラン、支部:ゴム)で、イスラーム法学者や現地の家族社会学の専門家へのインタビューを重ねた。これにより行動様式の決定要因として「家族」と「個人」がイスラーム社会論的見地からどのように構造化されているか、「利他行為」「利己行為」の峻別をどのようになすべきかなど、現地における最新の学説動向の把握を行った。イラン女性の活動実態については、教育、環境保護、弱者救済、コミュニティ活動等、様々なNGO組織で就業中ないしボランティアに従事する女性にそれぞれアプローチした。その結果、教育機関からキャリアが連続的かつ複線的に形成されている事例が少なくないこと、性別役割規範が就業/ボランティア活動に大きく影響することが確認された。さらに、イラン社会全般の潮流として、貧困や環境問題、公共マナーなど社会問題が広く認知されつつあること、以前よりも組織活動が実践しやすい政治環境になったこと、これらの帰結として女性が経済・社会環境を向上させるための担い手として活動する素地が再編・強化されつつあること――以上の一端が確認された。経済制裁解除の決定以降、イランは現在歴史的転換点に差し掛かっていると言える。これまでの研究領域の空白を埋めると同時に、同国社会の変化とその方向性について、その一端を解明しえたものと考える。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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北海道大学大学院経済学研究科Discussion Paper, Series B
巻: No.2016-14 ページ: 1-11