研究課題/領域番号 |
26883004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
磯部 美里 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 研究員 (90738072)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / タイ族 / 養育 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、中国の雲南省、西双版納タイ族自治州に居住するタイ族の「貰い子」事例を通して、女性と家族や社会、国家との関係性の解明を試み、女性が「子を産むこと」の社会的意味と「子を育てること」の社会的役割について検討することを目的としている。26年度は以下の3つの方面から研究を進めた。 第一に、関連資料の収集である。26年度は、中国北京にある国家図書館へ出向き関連資料を収集した。具体的には、子供を望む女性が妊娠しない場合に迫られる選択、つまり不妊治療と養子という二つの事象に関する社会学、人類学、歴史学における先行研究を収集するとともに、中国の児童福祉サービスの現状に関する先行研究、統計資料を調べた。また、タイ族における上記の二つの事象について書かれ文献資料を収集、整理した。 第二に、中国雲南省、西双版納タイ族自治州の景洪市の近郊村(16村)を中心に現地調査を2度実施した。まずは、全体の 状況把握につとめるため、各村をまわり村内で何例ぐらい「貰い子」が行われているのか聞き取り調査を行った。また 「貰い子」の年齢、民族、貰われた状況についても把握に努めた。さらに、「貰い子」を行った家族や「貰い子」を行った家族を持つタイ族から、 具体的な状況についてインタビューを行った。その他、関連機関を訪問し、計画出産政策における養子の扱い、妊娠前から出生届けを出すまでのプロセスについてたずねた。現地の言葉で書かれた文献資料を読む為に、現地に暮らす年配者から文字を学んだ。 第三に、学会発表である。26年度は、10月26日に神奈川大学で開催された日本現代中国学会第64回度全国学術大会にて『中国・西双版納タイ族の「貰い子」事例から考える女性と不妊』というタイトルで報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、中国の雲南省西双版納タイ族自治州に居住するタイ族の「貰い子」の事例を通して、女性と家族や社会 、国家との関係性の解明を試み、女性が「子を産むこと」の社会的意味と「子を育てること」の社会的役割について 検討することを目的としている。そのために、1年目の研究においては次のような3つの計画を立てた。 第一に関連資料の収集、整理である。これに関しては、北京の国家図書館、昆明に出版社や書店をたずね、中国国内で発表された学術論文や関連書籍を調べ、先行研究の把握に努めた。1年目の主な目標は収集、整理であったため、この目標はおおむね達成されたと考えている。 第二に現地調査である。1年目の夏と春、2度にわたり中国の雲南省西双版納タイ族自治州へ合計2ヶ月弱、現地調査に出向いた。申請者が調査を行っている地域の16の村における「貰い子」の数を聞いてまわるとともに、「貰い子」を行った家族への聞き取り、関連機関でのインタビューなどを試みた。1年目の調査を通して、当地におけるタイ族の「貰い子」の状況やその背景など全体像が見えてきたように思う。そのため1年目の目標は達成したと考えている。2年目以降は、これらの状況を踏まえ、事例の収集に努める予定である。 第三に学会報告、論文執筆である。これに関しては、昨年10月、日本現代中国学会の自由論題で学会報告を行った。それをもとに、現在論文を準備している。当初の予定では1年目に論文を発表する予定であったので、これに関しては今年度完成させる予定である。 以上のように、資料の収集、整理、現地調査、学会報告などの研究活動を研究計画書にしたがって進めた。このことから、研究はおおむね当初の予定通りに進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の進捗状況を鑑み、本年度は次のような研究計画を立てている。
1関連資料の整理、分析:今年度は、昨年度収集した資料や文献を引き続き整理、分析し、学会発表や論文発表に向けて本研究の課題 や意義を明確にする。 2関連資料の収集:今年度は中国における不妊という事象に関する先行研究や資料を収集する。本研究が扱う「貰い子」 という事例を不妊という問題から捉える。本研究の「貰い子」という事例と不妊との関連性を明らかにし、女性 が「子を産むこと」の社会的意味と「子を育てること」の社会的役割について検討する。 3現地調査 :本年度の8月と2月、中国雲南省、西双版納タイ族自治州景洪市の某鎮で現地調査を行う。26年度 は現地の16村で聞き取り調査を行い、「貰い子」に関する全体の 状況把握につとめた。一部、「貰い子」を行 った家族を尋ね、 具体的な状況についてインタビューを行った。今年度も引き続き調査を実施し、「貰い子」 事例の収集を行う。その他、近郊に居住する他民族の「貰い子」の事例についても調査を行い、タイ族との共通 点や相違点を探し、その背景を分析する。また、関連期間でインタビューを行い、地域の全体像の把握に努める とともに、問題点についても明らかにする。これらを通じて、「貰い子」という養育慣行の成立を可能とする政治的、社会的、文化的背景を明らかにし、女性と家族や社会、国家との関連性の解明を試みる。 4学会発表、論文執筆: 本年度は、本研究のこれまでの成果をまとめることに力を注ぐ。学会報告や投稿論文に 積極的に取り組む。具体的には、所属している文化人類学会での学会報告、現代中国学会の学術誌『現代中国』 への投稿を予定している。
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