本研究は、中国雲南省西双版納タイ族自治州のタイ族で行われる「貰い子」という養子慣行から、女性が「子を産むこと」の社会的意味と「子を育てること」の社会的役割について検討することを目的としている。この目的のために、平成27年度は以下の三方面から研究を進めた。 第一に、関連資料の収集、整理である。中国における不妊に関する先行研究、タイ族の出産慣習、養子慣行に関する歴史的記述の収集、文献の読み込みなどを行った。その結果、「子をもつこと」はタイ族において重要な意味を持ち、それはタイ族が信仰している上座仏教の仏教イデオロギーや宗教実践の影響であることがわかった。「子をもつこと」を達成するため、「子を産むこと」ができない場合、タイ族は「貰い子」を行っている。 第二に、「貰い子」に関する現地調査である。2015年8月28日から9月12日、2016年3月7日から3月19日までの二回、中国雲南省西双版納タイ族自治州のG鎮で現地調査を実施した。合計、56村落をまわり各村落の「貰い子」の人数や状況について聞き取りを行った。その他、G鎮B村にて仏教儀礼等の参与観察も行った。現地調査から、基本的に各村には「貰い子」がおり、漢族女児がほとんどだったことがわかった。 第三に、学会発表と論文執筆である。研究成果を発表するため、2015年の現代中国学会関西部会(タイトル「上座仏教社会における宗教実践とジェンダー:西双版納タイ族を事例として」)、日本文化人類学会(タイトル「子を産むこと、子を持つこと:中国西双版納タイ族の「貰い子」の事例から)で報告を行った。また現在、2年間の現地調査の集大成として「貰い子」に関する論文を執筆中である。
|