本研究は、近世オスマン帝国において「もの書く行為」の主たる担い手となった詩人たちの物心両面にわたる実態解明を行い、その社会生活が王朝貴顕/宮廷の財力と、職務任命権に大きく依拠する形で営まれた点を実証しつつ、その立身出世においては詩作能力の有無と優劣がその立身出世を大きく左右するというインフォーマルセクターにおける詩歌の社会的機能について指摘した。また彼ら心性についての研究では、「卑しい者ども」と呼ばれた都市の商工業者から成る庶民層とは著しく異なる「雅量」が彼らの価値判断帰順の中で大きな位置を占めていた点について明らかにした。
|