研究課題
(記事収集)2014年度は研究対象となる言説が含まれる記事に関して、『薔薇族』を1985年1月から1991年12月まで、『アドン』を1985年1月から1990年12月まで、『バディ』を1993年の創刊号から2000年12月までについて、閲覧・収集・複写した。ただしこの収集対象期間の中で、うちいくつかはすでに個人所有していたので、その号は複写の対象に含めずデジタル機器を用いて整理のみを行った。(分析)対象史料の言説を概観した。(1)当初仮定していた範型的言説(「言説」とは人びとの物事の考え方・表し方の定型的なパターンであり、「範型的言説」とはそれらの言説を生み出すような位置づけにある言説のことである。申請時においては範型的言説として、「段階モデル」と「感染モデル」を仮構した)は、あまり見いだせなかった。80年代までの男性同性愛者向けの雑誌において主流の話題は、詐欺・恐喝、仲間に出会えないこと・出会っても真の友情が育めないこと、女性との結婚問題、男性同性愛者向けの産業の興隆などについてであることを確認した。予想以上に多かった言説は詐欺・恐喝言説であった。これがこの時代の範型的言説だった可能性がある。(2)多くの先行研究が指摘していた精神分析・精神医学の影響(同性愛を変態視・病理視する見方)は、そうした研究が強調するほど言説が頻出するわけではなく、全くないともいえない状況にある。ただし、研究代表者がそれまで分析を行ってきた1950-60年代の風俗雑誌よりは(時代が下るにもかかわらず)病理性が強まっている特徴は指摘しうる。変態視・病理視については、言説の年代や言説の置かれた文脈を精査したうえで、丹念に考察する必要があることを確認した。(3)HIV・エイズ禍については、その社会状況の変化により、既存の誌面の雰囲気が大きく変わる出来事であったことを確認した。
3: やや遅れている
2014年度は「研究実績の概要」に記したように、1985年から90年12月までに刊行された記事について、閲覧・収集・分析の対象範囲としていた。(閲覧・収集)閲覧・収集に関しては、当初の予定と比較すると、『薔薇族』については予定を1ヵ年上回る達成ができた。『アドン』については予定通りの達成であった。『バディ』については大幅に上回る達成ができた。ただし、(1)『アドン』『バディ』は国立国会図書館においても欠号が多く、これらの雑誌の欠号に存在するであろう記事をどのように見つけ、収集するかの課題が残された。(2)『アドン』の誌面の作りについては、通説では80年代後半から娯楽誌から運動誌へと変化していったと言われてきたが、収集を始めた85年の段階ですでに運動誌の色彩が強かった。そのため、85年以前にさかのぼって記事を閲覧しなければ、本課題である「同性愛誌における同性愛解放運動の影響の研究」は十分に達成できない可能性があることを確認した。(分析)言説分析については概観にとどまっており、精査が遅れている。また仮定していた範型的言説の2モデルがさほど主軸の言説ではなかったことも明らかになりつつあり、別のモデルに組み替える検討の必要性も感じている。
(閲覧・収集) 2015年度は、上期(9月)が終わるまでに、当初予定していた収集対象期間(1985-2000年)の資料収集を終了させる。また、あわせて『アドン』の85年以前の記事について、閲覧・収集・複写を行う。欠号についてはなるべく埋めるよう努力するが、達成目標を設けない。(分析) 下期(10月)から本格的な言説分析に取組み、収集対象期間の範型的言説・それらの言説・諸言説の相互の関係性について明らかにする。12月からはジェンダー分析に入る。言説から見える男性性/女性性の振幅、あるいは性差別構造やジェンダーの非対称性について、スティグマ(差別の烙印)が可視的な性質をもつのか、不可視の性質を持つのかといったことに注目する。諸言説に見出される、majority/minority, visible/invisibleについてパターン分析を行い、他の差別問題への応用可能性を探る。本研究課題は基本的には、定まった期間における雑誌(商業誌)記事の言説分析ではあるが、こうした方法・期間で捕捉しにくいような事象については、対象期間をひろげたり、別の文字資料(文芸、ニューズレター等)を用いたり、量的分析(内容分析・記述統計)を行ったり、口述資料の質的分析をするなどして、事象に柔軟に接近し、総合的な解明に注力したい。(公開) これらの分析のまとめは、2016年度上半期の日本女性学会大会、あるいは同年度下半期の日本社会学会大会で報告する予定にある。
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薔薇窗
巻: 25 ページ: 41-76