同性愛者専門雑誌の言説が同性愛解放運動に与える影響は限定的であった。理由は大きく次の2点による。第一に、同性愛に関する重要なある訴訟をめぐる言説があったが、刑事訴訟から国家賠償訴訟へと論点が移行するに従い、読み手の関心を失い、のちの運動に論点や経験が接続できなかったためである。第二に、雑誌にあらわれる同性愛者の「生きづらさ」は成人男性が感じる寂寥感や孤独感(「ダンディズム」)として解釈されていたためである。男性の「成熟」と女性性の排除から成り立つその感覚は、他の解放運動、例えばレズビアンとの共闘といった方向性を持ちえなかった。
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