本研究の目的は、日本と米国における「出産女性と出生児の離別」に関する社会的合意と政策的意図の構造比較を通して、現代米国社会が直面している生殖をめぐる倫理的課題から得られる知見を、日本の生命倫理にかかわる各制度研究に還元することにある。具体的な作業として、1970年代以降の米国における母子関係の断絶と構築にかかわる3つの事象、周産期の養子縁組、代理出産契約、Safe Haven Law(新生児の親権を匿名で放棄できる公的制度)をめぐる法政策および社会運動の言説分析を行い、3事象の連関性を通時的に明らかにし、米国の「出産女性と出生児の離別」に関する現代史を記述する。これに1970年代以降の日本の代理出産、特別養子縁組、こうのとりのゆりかごをめぐる歴史的背景と現状に関する考察を加え、比較検討を試みる。 平成27年度は、7~8月および2月~3月に、米国ワシントンD.C.にある議会図書館、国立医学図書館等にて文献収集を行った。その成果の一部を、第14回福祉社会学会大会にて報告(「米国のInfant Safe Haven Laws」)する。日本の1970年代以降の特別養子縁組とこうのとりのゆりかごに関する考察は、第27回日本生命倫理学会年次大会にて報告し、論文「日本における妊娠相談と養子縁組をめぐる運動と立法」(『生殖と医療をめぐる現代史研究(生存学研究センター報告25号)』)で示した。今後の研究の展開は、米国のInfant Safe Haven Lawに関する上記学会発表を論文として刊行するほか、養子縁組と第三者生殖における母性問題の共通性を生命倫理の分野で問題提起することを目指す。
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