対外債務に苦しむ開発途上国において、ツーリズムは貴重な外貨獲得手段であり、失業率を減少させる経済問題の万能薬として考えられてきた。自然と文化が調和したコミュニティとしてツーリズム開発においても注目を浴びてきたのが、インドネシア・バリ島の水利組織スバックである。 本研究はツーリズム産業の進出により、若者の都市流出と農地の喪失が起きているバリ島北部サバ川流域を対象とし、住民主体の水利組織スバックの調整機能を明らかにするとともに、開発途上国の実情に即したコミュニティ主体型ツーリズムのあり方を提起するものである。 本研究では、ツーリズム産業の進出が著しいサバ川流域について、ボゴール農科大学およびウダヤナ大学の協力を得ながら、会議や儀礼などの参与観察および聞き取り調査によってスバックの実態把握をおこなう。同時に文献調査を実施し、調査対象地域の特異性を抽出した。 本研究により(1)スバックはツーリズム開発に対し、何ら意見をはさむ権限をもっていないこと(2)ツーリズム開発により構成員の数が減少し、構成員が規則を遵守しなくなってきていること(3)ツーリズム産業以外の経済活動もまたスバックの公平な水分配を阻害していることが明らかになった。
|