研究課題/領域番号 |
26884001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 沙奈美 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 助教 (50724465)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | ロシア / ロシア正教 / 聖人崇敬 / 列聖 / 後期社会主義時代 |
研究実績の概要 |
まず、ロシア正教会における聖人の位置づけについて、通史的な予備的考察を行った。中世以降現在まで、ロシア正教会が聖人をどのように位置づけてきたのか、近代以降の列聖と聖人崇敬にどのような変化が現れたのか、ソ連時代の列聖と聖人崇敬の実態がどのようなものであったのか、といった点について俯瞰的に先行研究を整理し、20世紀の列聖と聖人崇敬について明らかにすることの意義と課題を明確にした。これらについて、国外を含む学会・研究会で報告した。 また、この考察を含む論考をロシア語論文の形で発表することができた。 加えて、2015年2月から一か月にわたって、ロシア連邦サンクト・ペテルブルグで、聖クセーニヤについての資料収集およびフィールドワークを集中的に行うことができた。準備段階で、聖クセーニヤについて詳細な研究を行っている人類学者のセルゲイ・シュティルコフ(ヨーロッパ大学人類学部)およびジャンナ・コルミナ(ロシア国立高等経済学院ペテルブルグ支部)両氏と連絡を取り合い、参照すべき先行研究や調査方法についての助言を受けた。 サンクト・ペテルブルグでは、両氏との研究交流のためにヨーロッパ大学でセミナーを開催し、研究報告を行った。またシュティルコフ氏の協力のもと、聖クセーニヤの墓地でのフィールドワークを行うことができた。 さらに、国立中央アーカイヴ、国立宗教史博物館、サンクト・ペテルブルグ府主教区アーカイヴ、ロシア国立図書館で資料収集を行い、ソ連時代のクセーニヤ崇拝の実態、および当局と教会の高位聖職者・一般信者とのやり取りについて、貴重な資料を集めることができた。また、クセーニヤやマトローナについて、大衆向けの聖者伝やイコンを収集し、さらにクセーニヤの生涯をテーマとした戯曲を観劇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、ロシア正教会における聖人の位置づけについて、予備的考察を行った。中世から現在にいたるまで、ロシア正教会が聖人をどのように位置づけてきたのか、近代以降の列聖と聖人崇敬にどのような変化が現れたのか、ソ連時代の列聖と聖人崇敬の実態がどのようなものであったのか、といった点について通史的な考察を行った。これらについて、国外を含む学会で報告した。また、ここで得られた知見を論文の形で発表することができた。 本研究課題の実施に当たっては、これらの考察を踏まえてフィールドワーク前の準備を十分に行うことができたと考える。民衆によって崇敬される聖人について、ロシアにおける研究の第一人者ともいえるS.シュティルコフ氏およびJ.コルミナ氏と事前に連絡を取って、関連する研究についての示唆を受け、フィールドワークにおいても協力を得られたため、当初計画した以上に充実した現地調査を行うことができた。また、文書館での資料収集では、サンクト・ペテルブルグ国立中央アーカイヴのM.シカロフスキー氏の協力を得て、効率的な調査ができた。また、当初の計画にはなかった国立宗教史博物館でも資料収集を行い、新しい資料を得ることに成功した。 当初の計画では、モスクワでも資料収集を行う予定であった。しかし、ソ連時代にマトローナ崇敬は事実上ほとんど行われておらず、アルヒーフ資料はおそらく存在しないというコルミナ氏の指摘を受けて、今回は見合わせた。H27年度にモスクワでのフィールドワークを予定しているので、資料収集はその際合わせて行うこととする。
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今後の研究の推進方策 |
2015年2月の調査結果については、The 33rd ISSR (International Society for the Sociology of Religion) Conference(ベルギー、2015年7月)にて報告することを予定している。合わせて、調査結果を論文の形にまとめ、Religion, State and Societyなど国際的評価の高い査読誌に投稿する予定である。 H27年度以降は、聖マトローナとニコライ二世一家の列聖と崇敬を中心的な研究対象に据え、両聖人にゆかりの聖地があるモスクワとエカテリンブルグにおいてフィールドワークを行うことを予定している。どちらもソ連の歴史や社会状況と強いかかわりを持った聖人で、その大規模な崇敬が体制転換後に始まったという共通点をもつ。2つの事例の列聖の過程と崇敬の実態を明らかにすることで、1.ソ連時代の記憶、2.国家や地域アイデンティティとの相関、3.ポスト・ソヴィエトの信仰形態について考察する。 さらにニコライ二世一家と聖クセーニヤに共通する特徴として、亡命教会による列聖がロシア国内の動きに先立ったという点を挙げることができる。これに関連して、古儀式派や亡命教会を含めたロシア教会の動向について博士論文を提出した、ロシア国立人文大学のセメネンコ・バシン教授と連絡を取り合っており、モスクワでのフィールドワークの際に直接助言を受ける予定である。列聖を通じた在外教会とのつながりという視点を含めて、本研究課題を展開する予定である。
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