本研究課題では、現在のロシア社会において、大きな社会的影響力をもっている聖人について、その崇敬の在り方と列聖のプロセスを明らかにすることを目指した。具体的には、ペテルブルグの聖クセーニヤとモスクワの聖マトローナ、そしてロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世一家について調査を行った。 聖人崇敬という宗教実践は、キリスト教の教義や教会慣例についての理解をほとんど必要とせず、かつ日常的問題の解決に有効であると信じられており、これらの聖人が慈愛に満ちた賢い老女、信仰と愛にあふれた家族として現代の人々の共感を集めると同時に、古いロシア社会への懐古主義的イメージと結びついていることを明らかにした。
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