研究課題/領域番号 |
26884003
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
金沢 文緒 岩手大学, 教育学部, 准教授 (80606997)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | ザクセン / ポーランド / アウグスト2世 / アウグスト3世 / ベルナルド・ベロット |
研究実績の概要 |
本研究は、18世紀のザクセン=ポーランド同君連合期における両国の宮廷芸術を、その二重性という新たな視点から考察するもので、作品制作の差別化の実態を分析調査し、同君連合期の政治方針に宮廷芸術がどのような役割を果たしたのかを明らかにする。 初年度は、歴史学分野の研究成果も踏まえ、両国の時代背景の分析を行った。その過程で、当時ポーランドが正式にはポーランド王国とリトアニア大公国からなる共和国であり、ザクセン選帝候がポーランド国王だけでなく、リトアニア大公も兼任していた点に注目した。様々な視覚的媒体の比較検討の結果、ポーランド向けの作品においてのみ、リトアニアという国の表象が存在することが明らかとなった。この研究成果については、次年度開催の国際学会において口頭発表の予定である。 また、同君連合期の君主アウグスト2世および3世の政治方針と同時代のフランスの関係についても重点的に調査を進めた。両君主によるザクセンでの美術作品の収集は、常にフランスの状況を強く意識しながら進められたと考えられる。特に、絶対君主であったフランス国王ルイ14世の美術政策は、ザクセン出身の君主たちがポーランドに対するイメージ戦略の手本となっていたことが明らかになった。研究成果の一部として、論考「一八世紀ドレスデンの王立絵画館―フランスの文化的変奏としてのザクセン」(『美術と都市―アカデミー・サロン・コレクション』に所収)の中で、ザクセンの美術コレクションとフランスの関係について考察している。さらに、ベロットがドレスデンで制作した廃墟画の背景にある、18世紀後半のヨーロッパの精神性の問題について、同じくフランスとの関わりで考察した。論考「ユベール・ロベールの廃墟―甘美な憂鬱と時間性の表現をめぐって」(『絵画と表象Ⅰ―ガブリエル・デストレからユベール・ロベールへ』所収)はその成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヨーロッパにおける安全上の問題により、本年度末に予定していた海外での実地調査を延期した。そのため、国内で渉猟できた文献、電子媒体により入手できた一次資料の分析と考察に留まったため、本年度予定していた一部の課題に着手できなかった。これを補うべく、来年度は、海外での視覚資料の実見調査に重きを置き、本年度の研究目標の達成に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、同君主によるザクセンとポーランドの統治において、二国間における政治方針の差別化が美術分野に大きな影響を及ぼしていることを、具体的な作品の中に確認することができた。次年度は当初の予定より調査対象を広げ、多様な視覚的媒体を検討することにしたい。 また、本年度行うことのできなかった海外での実地調査についても、次年度は速やかに行い、その調査結果を次年度予定されている研究に繋げていきたい。 さらに、本年度の研究成果の一部については、次年度に国際学会での口頭発表の予定であるが、その後論文としてまとめ、広く発信することも必要である。
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