本研究は、18世紀のザクセン=ポーランド同君連合期における両国の宮廷芸術を、その二重性という新たな視点から考察するもので、作品制作の差別化の実態を分析調査し、同君連合期の政治方針に宮廷芸術がどのような役割を果たしたのかを明らかにする。 本年度はまず、同君連合期の君主アウグスト2世とアウグスト3世の政治方針に与えたフランスの影響について、昨年度に行った実証的考察を深め、ルイ14世の治世の政治的寓意表現を中心に調査分析を行った。 これを踏まえ、ザクセン出身の外国人君主であったアウグスト2世とアウグスト3世がポーランド国王として受け入れられるために行ったイメージ戦略について考察した。ザクセン選帝候がポーランド国王としてワルシャワに滞在した際に使用した建造物、すなわち、政治的拠点となったワルシャワ王宮と、ポーランド国王の前任者であるヤン3世ソビエスキの所有で、二重統治期にも政治的利用が継続されたヴィラヌフ宮殿の装飾を対象とし、ドレスデンの関連建造物との比較考察を行った。 さらに、アウグスト2世の前任のポーランド国王ヤン3世ソビエスキの再評価の動向に注目し、この時期ワルシャワで出版されたソビエスキ称揚の書物の分析を進め、ヴィラヌフ宮殿の改修について考察した。これらの作業を通じ、同君連合期の君主たちが、絶対君主であったヤン3世ソビエスキの過去の栄光を強調し、そのイメージに自らを同化させることにより、ポーランドの人々の理解を獲得しようとしたことが明らかになった。 そして、18世紀当時はポーランド向けに制作されたと考えられるドレスデンの作品群の分析を行った。シルヴェストルによる君主周辺の肖像画、ベロットの政治的寓意画の対作品、さらに、モックによる記念式典を描いた景観画群を対象とし、これらの作品の相互関係についても考察した。
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