研究課題/領域番号 |
26884010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志々見 剛 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (40738069)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 歴史記述論 / ルネサンス / キュロスの教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は16世紀の歴史記述論における真実と虚偽・虚構の境界を探ることであったが、本年度は特にクセノフォンの『キュロスの教育』の受容に着目し、研究を進めた。この作品は、ペルシャのキュロス大王の伝記の体裁をとりながらも、キケロが「信頼できる歴史としてではなく、正しい君主の模範を示すために書かれた」と述べているように、 道徳的・政治的な指南書としても捉えられてきた。しかし、15世紀にこの作品が「発見」されると、あるものはこれをペルシャの古代に関する歴史的な事実を述べたものと読み、またあるものはクセノフォンの想像力の産物と見做すなど、議論は紛糾した。そしてこれは、キュロス大王が同時に旧約聖書の登場人物として重要な役割を果たしていることと相俟って、単なる古代史上の事実認定を超えた、大きな意義を持つことになった。このような観点から、ロレンツォ・ヴァッラやポッジョ・ブラッチョリーニといった15世紀のイタリア人文主義者に始まり、フランスの法曹歴史家たち、さらにはモンテーニュ、英国のサー・フィリップ・シドニーにいたる『キュロスの教育』の受容をたどり、そこから歴史叙述をめぐる議論が、文献学、修辞学、神学、年代記学、詩学といった諸分野と交錯しながら深まっていくことを明らかにした。現在、これについて論文をまとめ、最終的な確認を経てフランスかスイスの専門誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
『キュロスの教育』の受容を扱うという予定は研究当初からあったが、実際に資料を広く分析することで、それが法曹歴史家たちの歴史記述論の枠にとどまらず、カルヴァンの神学的歴史論、スカリジェとヴィニエの年代学など、様々な分野と結びついていることが明らかになった。これは、当初の計画を良い意味で裏切る発見であった。 2月18日から3月2日にかけて行ったフランスでの資料調査は、研究を進めるうえで極めて意義があった。パリの国立図書館で重要な資料を閲覧することができただけでなく、16世紀文学の専門家の意見を仰ぐこともできた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは前年度の研究成果として、現在ほぼ完成している『キュロスの教育』に関する論文の最終的なチェックを行い、専門誌に投稿することを予定している。 その上で、文学的虚構をめぐる議論の中に、歴史記述についての議論がいかに取り込まれているのかを明らかにするため、詩論や物語論の類を中心に研究を進めることを計画している。例えばヘリオドロスの『エチオピア物語』(3世紀)を初めとするギリシャ小説の類などは、歴史と虚構の境界を考える上で、非常に重要なものとなるだろう。
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