研究課題/領域番号 |
26884014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小熊 利江 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00448838)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 日本語教育 / 音声 / ロシア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程を明らかにし、その言語個別的な特徴および普遍的な特徴について明らかにすることである。研究方法として、横断研究からの習得過程の予測について、縦断的な手法を用いて検証を行う方法を採る。研究代表者は、横断的な手法により、既に平成25年にモスクワにてロシア語母語話者52人による日本語音声データを収録している(迫田2014)。本研究では縦断研究を行うため、平成25年にデータ収集した同一の被験者に対して、再度、音声データの収集を行うことが必要となる。 まず平成26年度に、対象となるロシア語母語話者の日本語音声データを収録するという計画通り、平成26年度に研究代表者と研究協力者の2人がモスクワに出張し、モスクワにて音声データの収集を終了した。音声データ収集を効率よく行うために、被験者へのインタビューを行う研究協力者を依頼し、日本から出張同行してもらった。一方、モスクワの大学に所属する教員2人にも研究協力を依頼し、データ収集のスケジュール作成や被験者の日程等の調整を行った。 事前に、日本に留学中の学生を除く、被験者47人にメールで連絡を取り、研究への協力を依頼した。既に卒業して就職している者や日程の都合のつかない者がいて、実際に音声データを収集できた被験者数は24人であった。音声データの収集方法は、迫田(2014)のデータ収集の手順に沿って行った。被験者の日本語能力レベルを測定するために、被験者にSPOT60とJ-CATの2種類のオンライン・テストを受験してもらった。被験者には、前データ収集時と同等の謝金を支払った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に行うことが計画されていた、ロシア語母語話者の日本語音声データの収録は終了した。縦断研究として、平成25年度に収集した音声データ(迫田2014)と比較検討するため、迫田(2014)と同じ手順と方法で音声データの収集を行った。 モスクワ出張より以前に、日本留学中の学生を除く、被験者47人にメールで連絡を取り、研究への協力を依頼した。2年前に被験者となった学生52人のうち、データ収集時に在学していた学生は28人であった。それらの学生の多くは、今回の調査に参加してくれた。しかし、既に卒業していて連絡がつかない被験者や、日程的に都合がつかない被験者がいて、結果的に、今回データ収集できた被験者数は、24人となった。 第二言語習得研究の縦断研究を行うにあたり、同じ被験者について長期に観察を続けることは非常に難しい。また、音声データは分析に耐えうるレベルの質で収集すること自体に、多大な手間と時間がかかる。第二言語の音声習得研究において、縦断研究の対象として24人という被験者数は、例を見ないほど多い。したがって、本音声データは第二言語習得研究の上で、大変貴重なデータであると言える。 平成27年度には、収録した音声データの文字起こしとコンピュータ入力、および分析を行う計画である。音響分析ソフトを用いて音声データの編集を行い、学習者音声について日本語母語話者による聴覚評価の調査を行う予定である。平成26年度に、24人という多くの被験者の音声データを収集できたことで、本研究の結果を一般化することができる可能性が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、平成26年度にモスクワで収集した音声データの文字起こし、およびコンピュータ入力と分析を行う。音響分析ソフトを用いて音声データの分析や編集を行い、学習者の音声について、日本語母語話者による聴覚評価の調査を行う。 しかし、平成25年に収集した同一被験者の音声データのコーパス化(迫田2014)が完成しておらず、本データの分析結果と対照することができるかどうか、不確実な状態となっている。したがって、まず本音声データの分析を先行して進め、習得過程の予測を行うことにする。ロシア語母語話者の音声習得上の難易順序を明らかにした上で、さらに可能であれば、平成25年に取集した音声データと対照し、縦断的な分析を行うことにする。 ロシア語母語話者による日本語音声の聴覚印象の評価を詳細に行うには、音声研究者あるいはロシア語母語話者の日本語音声に接触経験の多い日本語教師に評価を依頼することが望ましい。日本国内でロシア語母語話者の日本語教育に集中的に携わる人材は多くないため、ロシア語圏で日本語教育を行った経験のある国際交流基金派遣の日本語教育専門家や日露青年交流センター派遣の日本語教師、ロシア国内で日本語教育を行っている教師など5人に、調査を依頼する予定である。 研究の成果については、平成27年度の研究の途上においても、明らかになった結果から随時、学会等にて報告していくことにする。発表する学会としては、日本語教育学会、日本音声学会などを想定している。また、ロシアの日本語教育界に研究成果を還元するため、モスクワの日本語教育国際会議においても研究発表を行いたい。この他、第二言語音声習得研究に貢献するため、様々な母語による日本語学習者の研究が進むヨーロッパにおいても研究発表を行う。発表する学会として、ヨーロッパ日本語教師会および英国日本語教育学会等が想定される。
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